「トヨタ賃上げ」波及効果どこまで、ジェイテクト・愛三工業も満額回答
トヨタ自動車の一次取引先で、賃上げ機運が高まっている。2023年春闘ではトヨタが自動車産業への波及効果を狙い初回交渉で満額回答したのを皮切りに、ジェイテクトや愛三工業も回答日を待たずに満額回答した。一方、中堅規模の一次取引先は賃上げには前向きなものの、原資の捻出に頭を悩ます。半導体不足の影響が残る中、各社はサプライチェーン(供給網)全体で好循環を生み出すための方策を模索している。
トヨタが満額回答した初回の労使交渉以降、トヨタ系大手部品メーカーで早期回答が相次いだ。2回目交渉で満額回答した、ジェイテクトの佐藤和弘社長は「産業界でムーブメントを作るべきだ」とし、3回目で回答した愛三工業の野村得之社長も「自社だけでなく産業全体の底上げが必要」との認識を示す。
独立系の中堅一次取引先にも機運は広がっている。愛知県の部品メーカー幹部は「採用面で戦えるレベルを考慮して、満額近くは(回答)せざるをえない」と話す。ただ各社が課題としているのが、原資の確保だ。
22年は半導体不足やコロナ禍の影響で、完成車メーカー全体が減産を実施。同時に資材やエネルギー費用が高騰し、先の部品メーカーも営業赤字に転落したという。他の部品メーカー幹部も「直近の決算は赤字だったが、自社だけ賃金水準が低いと人が集まらない。横を見ながらやるしかない」と苦しい胸の内を明かす。
トヨタは22年度に営業利益で1兆6000億円分のコストを負担。23年4―9月期も賃上げ原資としての活用も見込み一部負担を継続する。別の部品メーカー幹部は「コスト負担は有り難い」としながら「コストの補填はベースアップに直結しない。売価や数量が上がらないと利益の確保は厳しい」と漏らす。
対応する大手も出てきた。東海理化は主要取引先に対し、物価上昇分を加えた労務費相当分を取引価格に上乗せすることを決めた。一方、「競争力確保が大前提。購入価格を上げて競争力が落ちるならば正しくない」(別の大手部品メーカー首脳)との声も挙がる。
各社は原価低減活動などで原資の捻出を図る。しかし、トヨタも含め複数の完成車・大手部品メーカーと取引する一次取引先首脳は「3%や5%(の賃上げ)だと生産性向上だけではカバーできない」と話す。その上で「最終的には完成車ユーザーも含めた(値上げに対する)社会的コンセンサスが必要だ」とする。15日の集中回答日、各社の回答が注目される。(名古屋)
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