30年ぶり物価上昇局面で「春闘」、経済の悪循環を脱せるか
2023年の春季労使交渉(春闘)は約30年ぶりの物価上昇局面での春闘だ。原材料・エネルギー価格高騰や為替の円安進行による物価高を上回る賃金引き上げ圧力は強まっている。ただ、賃上げの原資を確保するため、サプライチェーン(供給網)全体で製品・サービスへの価格転嫁も同時に進めなければならない。今こそ、日本経済が長年苦しんできた賃金と物価が上がらない悪循環を脱する時だ。(編集委員・鈴木岳志、幕井梅芳)
経団連 デフレ脱却へ絶好の機会/連合 日本の未来つくり変える転換点に
1月23日に都内で開かれた、春闘の事実上のキックオフとなる経団連と連合トップの懇談会は例年以上に穏やかな空気が漂っていた。経団連の十倉雅和会長は「今年の春季労使交渉ではデフレからの脱却と人への投資の促進による構造的な賃金引き上げを目指した企業行動への転換を実現する、正念場かつ絶好の機会と位置付けている」と冒頭あいさつ。
連合の芳野友子会長もコロナ禍やデフレマインドを挙げた上で「日本が長い暗闇の中から脱する契機と捉え、取り組みをこれまでの延長線上での議論にとどめることなく、労使が力を合わせて、日本の未来をつくり変えるターニングポイントとすべきだ」と返した。
23年春闘の焦点は賃上げ実施の有無でなく、賃上げ率だ。連合はベースアップ(ベア)中心に計5%程度の賃上げを要求する方針だ。それに対して、十倉会長は「昨年は4%の賃上げ要求方針であった。足もとの物価上昇を踏まえると、昨年より要求水準を引き上げたことは十分理解でき、驚きはない」と受け止めを語る。
総務省が1月27日に発表した23年1月の東京都区部の消費者物価指数(中旬速報値、20年=100)は生鮮食品を除く総合指数が104・2と前年同月比で4・3%上昇し、第2次オイルショック以来41年8カ月ぶりの高水準を記録した。
歴史的な物価上昇は誰もが認めるところ。あとは、賃上げ体力で大企業に劣る中小企業まで「賃金と物価の好循環」の波が押し寄せるかだ。経団連は大企業中心だが、十倉会長も「適切な価格転嫁が日本のサプライチェーン全体で行われることで、中小企業にも賃金引き上げのモメンタムが広がっていく」と取引適正化を会員企業にあらためて呼びかけている。
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