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原料ヤード20分で点検、日本製鉄がドローン活用で得た効果

安全・防災にドローン活用
原料ヤード20分で点検、日本製鉄がドローン活用で得た効果

鹿島地区(茨城県鹿嶋市)の原料ヤード。ドローンが撮った画像データを確認しつつ、業務の付加価値を高める

日本製鉄は製鉄所のデジタル変革(DX)の一つに、飛行ロボット(ドローン)の活用を掲げる。鹿島地区(茨城県鹿嶋市)では原料ヤードの点検にドローンが活躍し、点検の精度向上や時間短縮につなげている。作業の負荷を軽減し、人は業務の高付加価値化を目指す。獲得したデータやノウハウは全国で水平的に共有し、地区間の相乗効果も発揮させる考えだ。(編集委員・山中久仁昭)

製鉄所は広大で、点検場所には足場を組むような危険な高所もある。近年は豪雨など自然災害が激甚化し、操業の生命線である「安全」と「防災」がより一層重視されている。

鹿島地区は東京ドーム220個分の面積を持つ。大きなウエートを占める原料ヤードには鉄鉱石や石炭、各種の副原料の山がいくつも築かれている。高く積むほど山は崩れやすく、設備の損傷リスクも高まるといわれる。

原料ヤードでドローンを導入したのは2022年夏。それぞれの原料を運ぶベルトコンベヤーの稼働状況を確認する。ある日のドローンの時速は約80キロメートル、高度は約60メートル。赤外線カメラなどを搭載し、コンベヤーのローラーなどに異常がないか撮像。作業員たちは地上で、モニターに映し出される状況とデータをチェックする。

鹿島地区(茨城県鹿嶋市)の原料ヤード。ドローンが撮った画像データを確認しつつ、業務の付加価値を高める

「同じことを人がやろうとすると2時間はかかるが、ドローンを使えば20分に削減できる」。ドローンの操縦士らを複数擁する日鉄の協力会社、鴻池運輸の担当者は語る。その活用で、従来できていなかったプラスαの業務を効率的に行えるようにするのが狙いだ。

ベルトコンベヤーのローラーは摩耗や劣化、障害物の挟み込みなどがあれば、発熱で検知可能だ。問題の箇所に作業者が素早く駆け付け、不具合を回避できるようにドローンは“つなぎ役”を担う。

ドローンでは、野積みされた原料の点検精度を高めるため、点検回数を増やし、カバーする領域を広げられるかも課題だ。日鉄鹿島地区の担当者は「自然災害が増え、原料の正確な把握は資産管理面からも重要になっている」と強調する。

日鉄は鹿島に限らず、各製鉄所地区でドローンの実証試験を行っている。広大な屋外だけでなく、設備内の狭い箇所の点検ニーズも多く、複数の機種を使い分けている。大型構造設備の配管点検にはリベラウェア(千葉市中央区)の小型ドローン「IBIS」を順次活用する。

この機体は縦・横約20センチメートル、重量185グラムで業界最小クラス。気流の中でも安定飛行や高精度な撮像、そして3次元化ができる。ダクト内部の亀裂、剝離などの点検に活用し、人による整備作業を効率化する。

DXについて日鉄のデジタル改革推進部は「技術を持つ企業と組み、可能なところから早期に変革する」との姿勢。森高弘副社長も「製鉄所のDXは大規模なものを想像されがち。身近なものから効果を出していきたい」と強調する。ドローンはあくまでDXの手段であり、使いこなすことが肝要なようだ。

日刊工業新聞 2023年01月17日

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