漆喰の力でウイルスを不活性化するメガホン「シックイホン」がおもしろい
関西ペイントは古くから伝わる建築素材の漆喰(しっくい)を成分とする塗料事業に力を注ぐ。漆喰はウイルスを不活化する特性に優れ、漆喰を塗布した紙製メガホン「シックイホン」も1日に発売した。共同開発したパートナー企業と合わせ2024年に販売10万個を目指す。多様なウイルス感染予防製品と競うが、これまでの塗料にない用途や付加価値に挑み、粘り強く事業を続ける。(大阪・田井茂)
「特注すれば外面に文字やロゴ、色などを自由に装飾できる。スポーツの競技会に提案したい」。関西ペイントの経営企画本部はシックイホンにこう期待を寄せる。シックイホンは声をよく通すが、飛沫をメガホン内にとどめる。組み立てが容易なのに加え、何よりの特徴が漆喰のウイルス不活化だ。コロナ禍から社会生活が正常化するにつれ、多くの競技会で観戦や声援が解禁され始めた。それを好機に、安心して声を出し応援できる独自のシックイホンを売り込みたい考えだ。
漆喰塗料の生産は16年前にさかのぼる。塗料と同じ建築素材として、絶えず使われてきた実力にいち早く着目した。漆喰の特性や質感を損なわず、ハケやローラーなど一般の方法で塗装できる漆喰塗料を07年に開発した。 ウイルス不活化の働きを科学的に確かめることに時間を要したが、その後も高機能フィルムや不織布に塗布できるタイプを16年に開発。これで用途が広がり、漆喰塗料による接触感染対策のテープとシートが売れ出した。
コロナ禍になると消毒液や除菌シートなどが品薄となったため、接触感染対策シートが「爆発的に売れた」(経営企画本部)。21年には漆喰による抗ウイルス製品の統合ブランドを立ち上げた。マットやマスクケース、卓上ボードなどをそろえ、法人向け電子商取引のウェブサイトも開設した。さらに防災用に、漆喰塗料を施した組み立て式段ボール製の簡易なベッド、トイレ、間仕切りも開発した。22年9月には北海道石狩市と災害時に同段ボール3製品を供給する協定を結んだ。寺岡直人取締役は「微力ながら市民のお役に立ちたい」と意気込む。
ただ、消毒液などの品薄が解消され模倣品なども増え、事業は伸び悩む。漆喰塗料関連製品の売上高は21年3月期に4億2000万円に達したが、23年3月期予想は1億3000万円にとどまる。
は関西ペイント、スポーツ競技団体の情報発信を支援するノッティングヒル(群馬県桐生市)、中小企業経営相談のANパートナーズ(東京都中央区)の異業種3社が、知恵を合わせ共同開発した。関西ペイントは独自技術として漆喰塗料の事業継続の意欲は強い。「シックイホン以外に次なる商品化を企画している」(経営企画本部)とする。