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キッコーマン・茂木名誉会長が語る「企業の役割」

世界を開拓、これからも伸びる

キッコーマンは2021年3月期の営業利益における海外比率が80%と、利益のほとんどを海外で稼いでいる。少子高齢化などで海外に成長を求める多くの日本企業が羨望(せんぼう)の眼差しを送る。現在の収益構造は、1957年に先駆けて米国に進出し、世界中でしょうゆの市場開拓を進めた成果。茂木友三郎名誉会長は「企業の役割は需要を創り出すこと」と話す。

茂木名誉会長が経営者としての信念をもつきっかけを与えたのは、学生時代に読んだ、ピーター・ドラッカーの「現代の経営」だ。この中でドラッカーは「企業の行為が人間の欲求を有効需要に変えたとき、はじめて顧客が生まれ、市場が作られる」と説いている。これに感銘を受けると、58年の入社と同時に休職し、米コロンビア大学院へ留学した。

キッコーマンは茂木名誉会長の留学の前年に米国に進出しており、留学中はたびたびスーパーマーケットの売り場に立ち、デモンストレーション販売を手伝った。米国人がしょうゆをかけた肉を試食した時の反応を目の当たりにして「米国でしょうゆの需要を作り出せるという印象を受けた」と振り返る。デモンストレーション販売で手応えを感じた茂木名誉会長は、日本に戻ると米国の工場建設を進言し、73年に開設した。

同年にはドイツに鉄板焼きレストランを開業し欧州へ進出した。このレストランでは肉や現地の食材としょうゆの相性の良さをアピールした。その後、ドイツには79年に販売会社を設立。97年にはオランダに工場が完成した。84年に東南アジアとオセアニアへの輸出を目的にシンガポールに工場を稼働させた。キッコーマンは現在100カ国以上で事業を展開する。

70年代頃、留学仲間を通じて約30人ほどの勉強会を月に1回開催していた。参加者の中には、東亜燃料工業(現ENEOSホールディングス)の中原伸之元社長らもいて、政治、経済、文化、さまざまなことを議論した。「海外情勢や世界経済の先見性など、社内の議論だけでは得られないものがあった」と、勉強会を通じてビジネス感覚を磨いた。勉強会は30年続き、参加者とは今も親交がある。

キッコーマンは世界中の調味料の潜在需要を捉え、成長を続けてきた。多くの企業が海外に進出する中、競争は厳しくなっているが「海外はこれからもますます伸びる。チャンスがある」とさらなる成長に期待をかける。(高屋優理)

【略歴】もぎ・ゆうざぶろう 58年(昭33)慶大法卒、同年キッコーマン入社。61年米国コロンビア大学経営大学院(経営学修士課程)修了。95年社長兼最高経営責任者(CEO)、04年会長兼CEO、11年名誉会長。千葉県出身、87歳。
日刊工業新聞 2022年12月13日

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