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なくてはならない会社へ…ウェザーニューズ社長の経営哲学

挑戦精神持ち生活支え続ける

「企業として成長するためには、人々になくてはならない会社でなくてはならない」。

ウェザーニューズの草開千仁社長が経営者として大切にしているのは、創業者の石橋博良氏からの言葉だ。2011年の東日本大震災ではこの言葉が何度も頭の中を駆け巡った。

未曾有の災害に際し、自分たちに何ができるのか。社内で検討を重ね、被災地へ視察に赴いた。復興のため護岸工事に従事する作業員が、余震の度に津波に備えて1日に数回も内陸に避難するなど、復興現場の厳しい現実を見せつけられた。

そうした中、東日本大震災の津波を海上保安庁の巡視船「まつしま」の船舶レーダーが30キロメートル先から捉えていたことを知った。この技術を応用して10―15分後の津波到達を予測できるTSUNAMIレーダーを開発し、「3年以内に黒字にならなくても、使命としてやらねばならない」と事業化を決断。現在、沿岸地域に14機を展開している。

草開社長は「自然災害で人々が困っているときになんとかしてくれた。そう思われるのが我々のレーゾンデートル(存在理由)の一つ」と話す。

”気象情報は無料の情報”との認識が一般的だった86年、石橋氏が創業した。創業以来の社風から、ビジネスの優先順位は「How Wonderful」「How much=3年以内の黒字化」だ。そして「良い仲間」を同等に重視している。

入社6年目に航空気象事業の営業を担当した時のこと。当時、前例がなかった海外航空会社への航空気象ビジネスが半年で苦しくなり、石橋氏に事業継続を求めて面談すると「赤字かどうかが問題ではない。良い仲間に恵まれていない」と撤退を促された。

事業のために集めた協力者たちの中に、苦境の中でなりふりかまわず事業継続を求める人がいないことを思い出し、二の句を告げなかった。ビジネスの師の言葉から「優先順位の本当の意味を知った」という。この教訓から、今でも社内の投資提案について、How Wonderfulから説明を始める。

草開社長は「(民間気象市場の)リーディングカンパニーとして今までにない、新しいものを切り開いていこう」と社員に語りかける。「気候変動対策は民間気象会社としての使命」と、気候変動に関する企業ニーズに応えるため、気候テック事業部を新設した。創業以来受け継いだチャレンジスピリットを胸に、人々の生活を支え続ける。(千葉・八家宏太)

【略歴】くさびらき・ちひと 87年青山学院大理工卒、同年入社。96年取締役、97年常務、99年代表取締役副社長、06年社長、16年社長最高経営責任者(CEO)。東京都出身、57歳。

日刊工業新聞2022年8月16日

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