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原点は「三愛精神」、リコー社長の経営哲学

受けた「たすき」磨き続ける

創業精神の「人を愛し、国を愛し、勤めを愛す」―。三愛精神は古くて新しい言葉であり原点だ。創業100周年の2036年に向けたビジョン「“はたらく”に歓びを」の実現に向けリコーの山下良則社長は人を見つめ続ける経営を実践する。

全国の工場や営業所に出向くと社員に「仕事で喜びを感じていますか」「仕事を通じて世の中の役に立っていますか」と問いかける。会社の役に立とうと思う人が多過ぎる。会社の先に必ず社会があり、リコーが存在する限り世の中での存在意義がある。社員はその一端を担っているとの思いがある。「顧客に寄り添い続けることと、創業者・市村清が唱えた『三愛精神』の実践以外は環境の変化とともに変えてよい」と語る。

入社後配属されたのは資材部。1986年に部品調達のため台湾へ一人“放り出された”ことは人生の転機だ。最初の1週間で日本語の図面を英訳し、現地社員・邱さんと二人三脚で、台北・台中・高雄を縦断する形で2週間ずつ1日4社以上回った。当時台湾でリコーの知名度はなくアポを取るのも一苦労。6社の契約を取り付けるも帰国後不良品も多いことが判明。安い台湾の部品を目の敵にする先輩もいるなど社内は社外と全然違うと感じた。「社外から学ぼうとする姿勢がないと社内は活性化されない」と痛感。「どんな会社にいても、どんな仕事をしても、どこの国にいても、一歩外に出ると違う景色になる」。

95年には管理職として英国に駐在。生産の現地化が進む中、人材の現地化に取り組んだ。管理職の大半を日本人が占めていたが、5人のうち4人を現地の人材に、そのうち2人を女性に変えた。「一気に英国企業に変わった」。2008年の米国駐在時はリーマン・ショックで不況に陥り、工場閉鎖などに関わる。「一貫して人に生かされ、人に助けられてきた」と振り返る。海外は人材の流動性が激しく他社で活躍する元社員も多い。「経営は閉じられていない。回り回って社会貢献になる」。

リコーは36年に100年を迎える。「100歳から101歳ではなく、1歳にならなければならない」と力を込める。駅伝のように先輩からのたすきを若い人材に託すだけでなく、環境に合わせてたすきを磨き、光沢を出し続けることが大事という。「ぴかぴかにする必要はない。だが輝きの強さはそのときの社員のはつらつさによる」。そう心に刻み、受けたたすきを少しでも輝くよう磨き続ける。(高島里沙)

【略歴】やました・よしのり 80年(昭55)広島大工卒、同年リコー入社。11年常務執行役員、12年取締役専務執行役員、16年副社長、17年社長。兵庫県出身、65歳。
日刊工業新聞2022年9月13日

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