電子カルテとPHR連携、富士通が札幌医科大学と挑むヘルスケアデータポータビリティーの世界
富士通と札幌医科大学は、個人が健康や医療に関するデータを主体的に管理するヘルスケア領域のデータポータビリティー(可搬性)の実現に向けて、個人の健康データ(PHR)の活用推進で合意した。札幌医科大付属病院の電子カルテに蓄積された患者の診療データ(EHR)を含むPHRを患者自身がスマートフォンで閲覧できる仕組みを構築すると16日発表。4月から運用に入り、北海道内における地域医療連携を加速する。(編集委員・斉藤実)
今回の両者の協業はPHRと電子カルテの融合に向けた先進的な取り組みと言える。患者自身による健康管理や病気の予防、医療機関による治療や予後管理における患者の健康状態の把握に加え、北海道という広大なエリアで地域医療間連携を促進し、医療の質の向上を目指す。
札幌医科大付属病院がシステム設計や運用を監修し、個人の健康データの利活用に向けた環境を整備。富士通は患者本人が個人所有の米アップルのスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」を用いてEHRを閲覧できるアプリケーションや、患者の健康データをクラウド環境で管理するシステム基盤を開発する。
患者は自身の健康状態と併せて、検査結果や薬の処方内容といった、これまで紙で病院から受け取っていた診療に関する情報をアプリから時間や場所を問わず確認し、健康管理に生かせる。
電子カルテシステムとアップルのヘルスケアアプリが相互連携する取り組みは日本初だとしている。EHRの外部保存に当たっては、次世代医療情報標準規格「HL7 FHIR」の国内実装ガイドに沿った形式に変換した上で保存する。
欧米などでは、国家レベルでHL7 FHIRの国内ルールの策定やデータポータビリティーに取り組み、スマホアプリによる個人の健康データの多目的利用が広がりつつある。しかし日本では各医療機関のEHRや個人がスマホなどで管理する情報は利用範囲が限定的で、個人の健康データ利活用促進が課題となっている。富士通と札幌医科大の協業が、そうしたデータ利活用の環境整備を後押しすることが期待される。
また富士通にとって今回の取り組みは、社会課題解決型の新しい事業モデルとして同社が本格展開を目指す「Uvance(ユーバンス)」のうち、ウェルビーイング(心身の幸福)を軸とした「ヘルシーリビング」領域での先駆例となる。
ユーバンス担当の高橋美波執行役員エグゼクティブ・バイス・プレジデント(EVP)は「PHRと電子カルテの融合は欧米では既に実現している。日本もこうした仕組みを入れなければ、世界から遅れをとってしまう」とグローバル視点での意義を語る。
さらに高橋執行役員は「北海道内は広く、地域で連携する病院にどうやって誘導していくかが課題であり、PHRと電子カルテが融合していればタイムリーにデータを共有化でき、患者は地域の連携病院にいつでも行ける」と、患者目線での取り組みの重要性も強調する。患者の健康状態に合わせた医療サービスなども今後注目される。