東京医科歯科大と東工大の統合は日本の成功モデルになるか
統合で前向きにチャレンジ/東京工業大学 学長・益一哉氏
―周囲から「国際卓越研究大学の支援資金が狙いか」とやゆは出ますが、統合反対の声自体は少ないですね。
益氏:職務の変化に不安を抱く事務職員などに、反対はある。対して(理系の)研究者は新しもの好き。「統合で何ができるか、挑戦したい」と前向きにとらえられている。
田中氏:病院スタッフはイメージがわかないと思う。しかし医療機器は現場に多く「もっと便利にならないか」と思う中で、一緒になる期待感がある。
―昔は医が工を見下すなど、文化や伝統の壁も耳にします。
田中氏:今の大学を背負っての議論では「これは譲れない」などまとまらない。新たな大学の未来のために、どうすべきかが重要だ。
益氏:30年後の日本を考え、高い視座で臨んでいく。しかし産業界の5年後にも配慮がいる。「製造業に抱きつきっぱなしの工学は止めよう」と、言っているのだが…。
既存の発想超えるもの創出/東京医科歯科大学 学長・田中雄二郎氏
―医療と技術の融合を産業競争力につなぐのは至難の業です。
田中氏:手術ロボットの実用化など先進例はあるが、デファクトスタンダード(事実上の標準)がとれていない。社会実装の段階での工夫が必要だ。統合で大学の存在感が高まり、国際的信用度が上がって勝負できれば、と願っている。
益氏:これまでは米IT大手「GAFA」などによる、サイバー空間が競争の舞台だった。しかしこれからのGX(グリーン・トランスフォーメーション)などでは、サイバーとリアルの両面だ。日本が強いハードウエアの力も発揮できる。
田中氏:日本は内視鏡の世界シェアが高い、などと安心してはいけない。胃の検査なら今や、コンピューター断層撮影装置(CT)でも可能だ。既存技術に依らず、今の発想を超えるものを作り出すには、東工大のような大学と組むのがよい、と話を持ちかけた。
―統合を実感するキャンパスのプランは。
益氏:1年生の教育をぜひ、一緒に。都内で手がけたい。東京医科歯科大の国府台は少人数だから、大岡山に持ってこられるだろう。学生は両分野の学び、対話にワクワクするはずだ。完成はまだ先になるが、東工大の田町キャンパス(東京都港区)のビルも活用する。世界につながる連携拠点の機能を、より高度に使いたい。