技術の発達で課題解決、「森林信託」の可能性
林業の収益性確保が求められている。林野庁の資料によると、林業経営の収支を施業地レベル1ヘクタールで試算した所、補助金を含めた収入は696万円。一方、経費は730万円だった。34万円の赤字となり、林業を持続するための再造林が進まない要因にもなっている。飛行ロボット(ドローン)などの新技術活用や、施業地の集約といった効率化、林業のサプライチェーン(供給網)の生産性向上が迫られる局面となっている。
解決策/森林信託 エコシステム構築
三井住友信託銀行は2020年、岡山県西粟倉村と住友林業の間で森林信託の普及に向けた包括的連携協定を結んだ。国内初の商事信託として同村で個人が所有する森林を信託受託した。森林信託を核に地域経済を巻き込んだエコシステムの構築を目指す。
「『山は信託に向かない』と言われ続けてきた」と三井住友信託銀の風間篤地域共創推進部長は話す。理由は価値の対象が“木”だからだ。
対象区画にどんな木が生えているのか、木の太さはどれくらいで、真っすぐに育っているのか―。複数の要素が合わさって、木=山の価値が決まる。木を一本ずつ確認するのは人手がかかり、信託では敬遠されてきた。
だが、技術の発達が従来の課題を解決した。軽飛行機やドローンによる上空からのレーザーセンシングで単木データを取得できるようになった。三井住友信託銀は同技術を手がける信州大学発のベンチャーに出資して産学連携する。
森林信託のスキームでは、西粟倉村に森林を保有しており村外に居住する森林所有者(村外地主)から、三井住友信託銀が森林を受託。村外地主は森林管理責務から解放される一方、林業事業体は施業地を集約できて運営の効率化につなげられる。
林業の持続的な発展には収益性を高める仕組みが重要だ。木は木材として利用価値を生むまで約50年育てる必要がある。「その間でもマネタイズしなければならない」とし、今回の森林信託のスキームでは「収益補完事業を付けている」(風間部長)。それが小水力発電所の設置で、売電収益による安定的な林業事業を可能にした。
さらに林業を中心にした西粟倉村が取り組む地域活性化事業との相乗効果もある。さまざまなビジネスと組み合わせて、「間伐をしても、先っぽの細い枝から根っこの株まで全部、収益に変えられる」(同)。
今後は情報通信技術(ICT)を使った「スマート林業」を目指す。デジタルデータを基に木を切り出すなど、林業の高効率化を図る。