テレワーク+就農で移住、ANAが実証で期待すること
ANAホールディングス(HD)は、地方に移住しながら都市部の仕事と農業など地方の仕事を両立する働き方を実践する実証実験を10月から始める。第1弾として高松市を選定し、首都圏の企業の社員最大20人を対象に、10―12月の期間で実施する。都市部の人材が転職せずに地方のコミュニティーでも活躍し、地方活性化に貢献することを期待しており、多様なライフスタイルのあり方として注目されそうだ。(編集委員・小川淳)
参加者は経団連の加盟企業などを中心に10月14日まで募集を呼びかけている。実証期間は15日から12月18日までで、高松市北西部の山間と瀬戸内海に囲まれた下笠居(しもかさい)地区での滞在・仕事体験を予定する。参加者はテレワークなどで所属する企業の仕事を続けつつ、ミカン栽培などの就農も体験できる。都市部の仕事と農業など地域の仕事を両立する「アグリ・スマートシティ」の実現を目指す。ANAHD傘下のANA総合研究所(東京都港区)が全体を調整し、NTTコミュニケーションズ、羽田みらい開発(同大田区)が協力する。
実証実験は3月に募集を開始し、手を挙げた自治体の中で最初に準備の整った高松市が第1弾に選ばれた。同市の大西秀人市長は、9月中旬のオンライン会見で「本市も多くの地方都市と同様、人口減少や1次産業の労働力減少などの課題を抱える」と強調。その上で「このプロジェクトを通じ、新たな関係人口の創出拡大や移住の促進などにより、こうした課題可決につながることを期待している」と述べている。
移住者の具体的な働き方としては、首都圏から転職せずに移住し、市内各所のコワーキングスペースを活用しつつテレワークを実施。週末などを活用しながらミカン農家で就農体験をしてもらうことなどを想定する。さらに移住者が積極的に地域住民と交流することにより、農業関連のデジタル変革(DX)や流通改善など、新たなビジネス機会が生まれ、農業など1次産業の活性化につながることも期待している。
ANA総研の藤崎良一執行役員は「今後、多くの自治体が第2、第3弾と続いていただき、アグリ・スマートシティの実現に大きなムーブメントが起きてほしい」と話す。
すでに全国で15程度の自治体が関心を示し、2022年内には第2弾として4―5自治体で実証実験が始められる見通しだ。実証実験は2年を予定し、事業化も検討する。
コロナ禍でテレワークが浸透し、地方への移住も進むなど新しい働き方が進みつつある。今回の実証実験はそこから一歩踏み込み、転職せずに移住した先で農業や林業、水産業、伝統工芸など地域の仕事を兼業し、地域活性化にもつなげるユニークな試みだ。ANAHDでは、青果物などの産直空輸などの拡大も期待している。