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信金中金も農林中金も…NTTグループと協業で前面に出す強み

信金中金も農林中金も…NTTグループと協業で前面に出す強み

信金中央金庫とNTT東西の中小向けサービス事業での提携会見(柴田信金中金理事長㊧と渋谷NTT東社長)

系統中央金融機関が相次いでNTTグループとの協業に動いている。信金中央金庫は今夏、NTT東日本・西日本と中小企業向けデジタルサービスの提供で業務提携した。農林中央金庫も同時期にNTTビジネスソリューションズなどと食品ロス削減などのサービスで連携を始めた。新規ビジネスの創出に向けてNTTグループと組む信金中金、農林中金だが、協業の考え方にはそれぞれの強みが前面に出ている。(日下宗大、張谷京子)

信金中金・NTT東西、中小のDX浸透支援

「3社の強みを掛け合わせて、地域経済を担う中小企業1社1社にデジタル変革(DX)を浸透させる」。信金中金の柴田弘之理事長はNTT東西との提携の狙いをこう話す。

今回の業務提携で信金中金は10月から順次、中小企業向けのポータルサービス「ケイエール」の提供を始める。同サービスで全国の信用金庫と、信金が根を張る各地域の中小企業をデジタルでつなげられる。2027年3月末までの5年間で25万社への導入を目指す。

同サービスの主な機能には「資金繰り把握」や「電子請求書対応」などがある。これらを各信金が地域の特性に応じてカスタマイズして、顧客に提供する。

中小企業のDX支援もNTT東西と連携して強化する。総務省の資料によると、DXについて「実施していない、今後も予定なし」と回答したのは「東京23区内」では44・2%だったのに対して、「その他の市町村」では72・6%。地方ほどDXが遅れているのが実情だ。DXの遅れは国全体の生産性にも影を落とす。「経営指導や金融面は信金が、デジタルや情報通信技術(ICT)面の支援はNTTが担えれば、中小企業の生産性向上に貢献できる」と渋谷直樹NTT東社長は話す。

農林中金・ビジネスソリューションズなど、食品ロス削減

農林中金は食品廃棄物の有効活用や食品ロスの削減といったテーマで、NTTビジネスソリューションズなどNTTグループ3社と組む。「今回のテーマを通してNTTのビジネスと我々の取引先の課題をマッチングしていく」と農林中金食農法人営業本部の林晋也営業第三部部長代理は述べる。

以前からNTTグループは、食品廃棄物の堆肥化やバイオガス化のサービス、小売店舗向けの食品ロス削減支援サービスなどを抱えていた。ただ、社会実装のスピードアップが課題だった。

そこでJA三井リースや農林中金総合研究所を含めた農林中金グループと連携。農林中金の取引先の食農関連事業者や系統団体から食品廃棄物や食品ロスの課題に対するニーズの把握を目指す。

農林中金はNTTグループ3社と組み、食品ロス問題などの解決を目指す(イメージ)

もちろん金融機能の提供も行う。食品廃棄物を堆肥化したりする機器は事業者にとって導入費用が壁となる。「農林中金やJA三井リースを活用して、当初費用がかからないリースの仕組みなどを検討している」(林部長代理)。今後、連携範囲の拡大も検討。「まずは環境で、もう一つは(通信技術などを生かした)スマート農業を軸に考えている」(同)という。

金融業界では外部連携が当たり前になりつつある。EYジャパンの綱田壮己ストラテジー・アンド・トランザクションリーダーは「DXに関して金融機関にスキルがある人は少ない」と指摘する。経費削減の必要から人員を大幅に増やせない中、専門的な知見を持つ企業と金融機関の協業が最適解となっている。

このため「銀行法改正を受けて人材紹介業、地域商社やフィンテック(金融とITの融合)なども含めて、金融機関がいろいろな領域に進出しようとする動きは続く」と綱田リーダーは話す。

非回線事業拡大へ布石、通信・金融分野で地域社会発展を

NTTグループの中でも、固定電話や光回線など地域通信を担うNTT東西。両社にとって今回の信金中金や農林中金との提携は、非回線事業の拡大に向けた一つの布石となる。非回線とは農業やグリーンエネルギー、中小のDX支援など、回線収入以外のサービス分野のこと。多分野の知見・ノウハウが求められるため、NTTは以前から他社と連携して非回線ビジネスの拡大を図ってきた。

今回の提携は、そうしたビジネス展開の延長にある。NTTは通信分野で、信金中金・農林中金は金融分野でそれぞれ地域との結び付きが強く「地域社会の発展を支える」というパーパス(存在意義)で共鳴する。互いの強みを生かして円滑にビジネス連携できるメリットは大きい。

NTT東、NTT西は少子高齢化やモバイルの普及で回線収入が頭打ちとなる中、非回線分野の拡大に注力している。21年度時点で3割程度だった非回線の売上高を、25年度までに5割以上に引き上げる目標を掲げる。

情報取得、デジタルで的確に/EYジャパン銀行・証券セクターストラテジー・アンド・トランザクションリーダー 綱田壮己氏

同じNTTグループとの連携だが、信金中金と農林中金が考える戦略はそれぞれ違う。

信金中金は「中小企業をターゲットにする」という非常に明確な意図がある。2000年代に(財務データから信用リスクを判定する)スコアリングモデル手法がいったん破綻した。問題だったのは情報の量と質、そして頻度だった。

EYジャパン銀行・証券セクターストラテジー・アンド・トランザクションリーダー 綱田壮己氏

今回、信金中金はNTTとの連携によるDXで的確に情報を取れるようにした。さらに中小企業と、個別信用金庫を介して信金中金をつないだ際にファイナンス機能を組み込むという発想もある。適宜、適切、タイムリーにファイナンスを提供していくという「機会の提供」と「リスクの把握」の両輪を回せるようにした。

一方、農林中金は明らかにSX(サステナビリティートランスフォーメーション)の文脈に沿った連携だ。現状、金融業界ではサステナブルファイナンスやインパクト・ファイナンスなどの動きは活発になりつつも実態を捉えきれない面がある。デファクトスタンダードが決まらない状況にあっても、今回の連携を起点に全体の潮流を見ながら業種、業態のトレンドを探ろうという「探索作業」や「応用研究」を目的にしていると見ている。

産業の動きを的確に捉えるにはサプライチェーン(供給網)の中に入る必要がある。農林中金は食農関連でサプライチェーンのかなり深い部分の事業者とも取引しており、新しい事業などを創出できる強みがある。(談)

日刊工業新聞2022年10月12日

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