ドコモ「賛成」楽天「強く反対」、攻防激化する電波オークション導入の行方
携帯電話用の周波数について、より高い金額を提示した企業へ割り当てを行うオークション方式の導入に向けた議論が熱を帯びている。NTTドコモが賛成する一方、携帯通信に参入したばかりの楽天モバイルは資金面の懸念から激しく反発。各社の意見を紐解くと、従来の審査方式の功罪があらわになる。総務省には健全な競争環境の形成を意識しつつ、オークションの利点や課題の整理を進めることが求められる。(編集委員・斎藤弘和)
「私どもは小規模・後発事業者。一生懸命、競争促進を頑張っているが、規模も全く違う皆さまと同じ土俵というのは無理がある。議論が十分になされていない段階では、オークション方式には強く反対する」―。2021年11月30日に開かれた総務省の有識者会議「新たな携帯電話用周波数の割当方式に関する検討会(第3回)」に登壇した楽天モバイルの山田善久社長は、自社は“弱者”であるとの論理に徹した。
電波オークションは、落札額が高騰してしまい、本来は事業に使うべき資金がオークションに費やされる懸念がある。こうした点から、国内通信事業者は導入に消極的だった。だが同検討会の第2回で、ドコモが前向きな意見を表明。KDDIも実質的に容認した。
20年4月に携帯通信事業へ本格参入したばかりの楽天モバイルは、同事業が黒字化していない上、加入者数などの規模でもドコモ・KDDI・ソフトバンクの大手3社に大きく見劣ることは事実だ。一方で楽天グループの三木谷浩史会長兼社長は、公の場で強気の発言を繰り返してきた。例えば「我々は、もともと(電子商取引などの)会員が日本に1億人以上いる。ネットのパワーで(携帯通信の)会員獲得は問題ない」といった具合だ。
ところが三木谷氏は、ドコモの動向に気色ばむ。簡易投稿サイト「ツイッター」に「電波オークションは過剰に利益を上げている企業の寡占化を復活するだけで、最終的には携帯価格競争を阻害する『愚策』だ。弊社として大反対」と投稿。これに続き、楽天モバイルの山田社長が有識者会議で泣き落としにかかった。
山田社長は「周波数の割り当てを通じて、今、総務省さんがさまざまな政策を実現しようとしているが、そういった手段が喪失されてしまう」とも述べた。従来の比較審査方式では、通信可能エリアの広さや基地局の開設数といった評価基準が示されてはいる。しかし評価項目を決める政府の裁量が大きく、透明性に課題があると考えられてきた。山田社長は総務省に対し、裁量権を捨てて良いのか、と揺さぶりをかけたとも解釈できる。
通信業界内には、楽天モバイルが裁量行政の恩恵に浴したとの見方がある。21年春に行われた第5世代通信(5G)用周波数の割り当て審査では、審査項目に「eSIM導入」や「SIMロック解除」への取り組み状況などが盛り込まれ、これらで高得点を獲得した楽天モバイルが割り当てを受けた。
eSIMは通信サービスの利用に必要な加入者識別情報をスマートフォンなどに遠隔で書き込む技術。契約手続きの迅速化につながる場合がある。SIMロックは携帯通信事業者が自社で販売した端末を他社回線では使えなくする枠組みで、消費者が通信会社を乗り換えることを妨げる要因とみなされてきた。総務省は市場競争促進の観点で、消費者の通信会社の乗り換え円滑化を重視している。それが審査項目にも反映された格好だ。
この審査で落選した企業の関係者は、「楽天モバイルに有利な基準だったとは思うが、手を上げずにいて『今後も、もう電波は要らないの?』と思われてしまったら困るので、一応、戦う姿勢を見せた」とし、もともと“自社の番”ではないと想像していたと明かす。割り当ての見込みが薄い事業者も形だけ申請をせざるを得ないような事態が続くとすれば、全く生産的でないだろう。
ただ今後、オークションが導入されても楽天モバイルが窮地に陥るとは限らない。デメリットとして指摘されている、特定事業者に周波数が集中してしまう事態への対応策について、議論が深まりつつあるためだ。
例えば獲得可能な周波数に上限を設定する「周波数キャップ」に関して、諸外国での実施事例が紹介された。また、「小規模事業者に対しては、落札額の割引を適用して経済的な負担を軽減することも可能」(マルチメディア振興センターの飯塚留美シニア・リサーチディレクター)。佐野隆司横浜国立大学大学院国際社会科学研究院准教授は、「オークション導入のデメリットについては、さまざまな制度設計で解決できる」とみている。
産業政策において、新規参入者へ一定の配慮を行うことなどにより、健全な競争環境を保つ努力は必要だ。一方で総務省は、幹部らがNTTグループや東北新社から接待を受けていたことが21年に発覚した経緯もあり、これまで以上に政策の透明性が問われる。「新たな携帯電話用周波数の割当方式に関する検討会」では、22年夏ごろに報告書を取りまとめる見通し。これに向け、バランス感のある制度を設計・提案していけるか注目される。