挑戦する中小企業を後押しするクラウドファンディング、D2Cの拡大 難しさも
BツーB(企業間)製品を手がける中小製造業が、消費者向けに自社ブランド製品を開発し販売する事例が増えている。コロナ禍で既存取引先からの受注が減り、それを補うのが主な狙いだ。さらに知名度向上や人材育成など、収益を上げること以外の成果に期待する企業も多い。交流サイト(SNS)やクラウドファンディング(CF)の浸透で販路拡大が容易になったことが挑戦を後押しする。(昆梓紗)
BツーBをメーンとする中小製造業が、消費者向け製品事業に乗り出す動きは、2008年のリーマン・ショック後にも見られた。コロナ禍でのそれは、テストマーケティングや販売にCFを活用することで、よりスムーズに製品化や拡販につなげられる点が大きく異なる。
マクアケは、試作品やD2C(消費者直接取引)製品を多く取り扱うCFサイトを運営する。同社によるとCFサイトでの22年4―6月期のプロジェクト掲載開始数は、コロナ禍が本格化する前の20年1-3月期と比べ2・3倍の2044件、購入総額は同102%増の52億4500万円に増加した。
SNSの活用で、広告宣伝費を抑えながら自社製品をPRできるようになった点も大きな変化だ。00年から消費者向け製品を手掛け、コロナ禍で新たにアウトドア用薪ストーブを発売した寿産業(神奈川県秦野市)の布田昭人最高経営責任者(CEO)は「以前は直営業で拡販していたが、現在はSNSを中心とした情報の受発信が重要になっている」と実感する。
収益確保だけでない成果を求める企業が多いのも特徴だ。自社の知名度やブランド力を高めることでBツーB事業の拡大や、人材採用に結び付けることを狙う。
また消費者の意見や感謝の声を直接得られる点もメリットだ。20年にシリコーン製グラスを売り出した錦城護謨(大阪府八尾市)は「BツーB製品だけでは、胸を張って自分たちが作ったと言えない心苦しさがあった」とする。消費者向け製品事業の展開で社員のモチベーションアップに期待する。
消費者側の変化も企業を後押しする。「コロナ禍で共感や応援の気持ちから製品を購入する人が増えている」とマクアケの矢内加奈子執行役員は指摘する。マクアケの購入者のうちリピーター率は77.3%(22年4―6月期)で10回以上購入するユーザーも約9万人に上るという。こうした中、BツーB企業がSNSで作り手としての「思い」を発信しながら販売する製品は、消費者の共感や信頼を得て支持を集める。
ただ消費者向け製品事業の展開は簡単ではない。金属加工品を主力とするツカダ(岐阜県関市)。消費者向け事業ではステンレス製極薄名刺入れなどが好調だが、塚田浩生社長は参入当時を「『地獄の一丁目』に来たようだった」と振り返る。
消費者向け製品は受注見通しが立てにくく、生産や在庫管理で適切な計画を立てるのが難しい。また宣伝やカスタマーサポートなど新たな業務負担が発生する。BツーB製品に比べ単価を上げにくい製品も多く、「労多くして功少なし」といった状況になるケースは少なくない。
同事業で成果を上げるには、目的を明確化した上で社内リソースを確保し、多面的な指標で効果を測定しながら、長期目線で取り組む姿勢が重要と言えそうだ。