MoMAで販売されるマルチオープナーに生かされた特殊加工とは
新中央工業(広島県東広島市)はペットボトルのキャップを空けたり、ボトルの栓を抜いたりするのを補助する「マルチオープナー」を2016年に発売した。本業で使用していたステンレスの薄く、硬い板を活用し、デザイン性の高い製品に仕上げた。MoMAデザインストアなどで販売され、累計販売数は1万個を超えている。(取材・広島・大櫛茂成)
同社は精密機械加工やスプリングの製造、研磨加工、熱処理、溶射などを手がける。2011年に航空宇宙品質マネジメントシステム「JISQ9100」の認証を取得、14年には航空・宇宙分野における特殊工程管理の国際認証「Nadcap(ナドキャップ)」を取得し、航空分野に参入した。
強みは複数の表面処理を行うグループ会社を有することだ。ワールド・アルマイト(広島県東広島市)はアルマイト処理、S・E・P技研(同)は化学研磨の手法を用いて鋼製部品のバリを取る「SEP処理」が主力事業。特にSEP処理は同社と広島県立西部工業技術センターが共同開発したもので、研磨剤を使う物理的なバレル研磨や顕微鏡による手作業に比べ加工時間を大幅に短縮できる。
グループはスプリング加工を行う三興スプリング(同三原市)も含めて、自動車や家電など企業向けの事業を展開する。こうした中、一般消費者向けの事業に参入したのは「前社長の価格決定権が当社にある製品を持ちたいとの考え」(中西顕郎社長)がきっかけだった。
12年に缶やペットボトルのふたなどを開ける際の補助器具「アケルンジャー」を製品化した。新聞社のノベルティに採用され、一定の数量は販売できた。ただ、「いかに安く、使いやすいかを求めて製品化した」(同)ため、デザイン性は低かったという。
そこでデザイン性の高い新たな製品の開発を目指した。苦闘する中、中西社長の知人が東京のあるデザイナーを紹介してくれたのが転機となる。デザイナーが新中央工業のことが知りたいと広島県東広島市の本社を来訪。会社の強みを生かした製品が良いとアドバイスを受けた。そこで、強みは何かを検討し、防音壁用のバネに使っている薄くて硬い特殊なステンレス板を選定、新製品の素材に採用した。完成した製品はデザイン性も高く、展示会でニューヨーク近代美術館の担当者の目にとまり、MoMAデザインストアでの販売が決定した。
塗装設備を導入し、外注していた塗装を内製するなど社内の体制も整備してきた。中西社長は「自分たち社内の人間だけだったら、あのようなデザインは思いもよらなかった」と振り返る。消費税抜きの価格は1800円。年間2000個弱販売し、これまでの累計販売数は1万個を超えたという。
次の製品も発売に向けて、着々と製品化が進んでいる。新製品は段ボール箱を開ける際の補助器具「パッケージングオープナー」。内部の製品を傷つけず、手を切ることもない段ボール開封補助器具に着目した。年明けの発売に向けて、準備が進んでいる。