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【ディープテックを追え】プラスチックをロケット燃料に。衛星の移動ニーズを狙う

#92 Letara

宇宙で民間主導のビジネスが加速している。複数の衛星が協調動作させ、システムを構築する「衛星コンステレーション」などが使われるようになってきた。日本や米国などが協力して月を目指す「アルテミス計画」に合わせ、民間企業にも月を目指す動きもある。

人工衛星の用途が広がることで、新たなニーズも生まれている。宇宙デブリ防止や宇宙空間で早く移動したいというものだ。北海道大学発スタートアップのLetara(レタラ、北海道中央区)はプラスチックを燃料に使ったロケットエンジンの社会実装で、このニーズに挑む。

「より生活が豊かになるのではないか」

(左から)平井COOとケンプスCEO(同社提供)

レタラのケンプス・ランドン最高経営責任者(CEO)が人工衛星の可能性を感じたのは米国の情報官として働いていた時だ。アフガニスタン駐在中、国境管理に従事した際、人工衛星による通信情報の有用性を痛感した。それ以上に可能性を感じたのが一般情報だ。「天気予報にGPSなど、これらのデータをアフガニスタンの人々が使えれば、より生活は豊かになるのではないか」。

その後、宇宙分野の最新知見を学ぶために入学したのが、北海道大学。「人工衛星の開発は多くの研究者や企業が取り組んでいる。一方、人工衛星の打ち上げは順番待ちの状態だ。この課題を解決できる手段こそ、ロケットエンジンだ」とケンプスCEOは強調する。同社が開発するのは、プラスチックを燃料にしたロケットエンジン。従来よりも安全性を高めつつ、高出力を実現する。

トレードオフを解消

燃焼の様子(同社提供)

既存のロケットエンジンは推進力と安全性がトレードオフの関係性にある。安全性を重視すると推進力が弱くなり、推進力を出そうとすると危険な液体燃料を使わざるを得ない。特に液体推進の場合、爆発の危険があるため、安全管理のコストが高くなる。宇宙ビジネスの普及を見据えると民間企業では使いづらい。

同社が開発するロケットエンジンは、固体のプラスチックと液体の酸化剤を燃料にして推進力を得る。爆発の危険性が少ないため、安全管理のコストを削減できる。また真空状態で燃料に点火するなどの機能で、高出力を得られようにした。既存のトレードオフを解消した形だ。この点を生かし、ミッション遂行の時間短縮を目指す。複数の小型人工衛星を「相乗り」で打ち上げる流れから、燃料などの安全性を重視する風潮は強まると、同社は予想する。ほかにも燃焼によるノズル浸食などによる出力低下を予想し、エンジンの性能を保証することにも成功している。このエンジンを600キログラム以下の人工衛星向けに提供する。人工衛星が宇宙デブリになることを防いだり、遠い星への移動手段として使う。静止トランスファ軌道という軌道からであれば、月まで到達することも可能だという。

ライバルになりそうなのが電気を使って推進力を得る、電気推進機だ。ただ、平井翔大最高執行責任者(COO)は「電気推進機ではミッションの遂行に時間がかかる」と指摘する。同社は今後、宇宙でのミッションは「高度かつ遠距離」に拡大すると見る。そういった場面で同社のエンジンの特徴である安全性が高く、高出力な点を生かせるとにらむ。将来は用途に応じて、電気推進機と同エンジンを使い分けることを想定する。

23年にも宇宙へ

地上試験モデル製品(同社提供)

2023年から24年の間には、同エンジンを宇宙空間で実証する予定。早ければ24年には「ヴァン・アレン帯」という放射線帯を通過するために利用されるという。放射線の影響を受けやすい電子機器などを守るため、出力の高い同エンジンを使う。軌道上の移動サービスや有人飛行向けの推進機としての活用も目指す。

「近い将来、宇宙は人が活動する空間になる。そうなれば有限な時間を有効に使うという視点が必要になる」とケンプスCEOは話す。同社のロケットエンジンは、宇宙空間での“時間の制限”という課題を解決できる可能性を秘めている。

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