4K動画配信・オンライン会議を支える「光ファイバー通信技術」研究の最前線
4K動画配信や通信型ゲームなどの娯楽から、在宅勤務やオンライン会議などの企業活動まで、世界中で毎日多くの情報通信アプリが利用されている。それらのアプリを支えているのが、光ファイバー通信技術である。
NICTでは増え続ける通信量に対応するため、光ファイバー通信の伝送容量を着実に増加させ、省エネかつ低コストの次世代光ファイバー通信システムを研究している。キーとなる技術は、1本の光ファイバー内の複数の光路で同時に異なる光信号を伝送する新型光ファイバーにより大容量を実現する「空間分割多重伝送技術」である。これまでNICTでは、1本の光ファイバー内に複数の通り道(コア)を配置したマルチコア光ファイバーにより大容量伝送を実証してきた。
さらなる大容量を実現するため、私たちは「伝搬モード」と呼ばれるコア内の光路を複数利用し、異なる光信号を同時に伝送する手法をマルチコア光ファイバー伝送に取り入れた。ガラス製の光ファイバーは、光信号の通り道となるコアとその周りのクラッドから構成され、両者の屈折率の違いによってコア内で全反射を繰り返しながら光信号を伝送する。コアの直径によって伝搬モード数が変わり、複数の伝搬モードで光信号を伝送することができる。
しかし、複数の伝搬モードを利用するとモードごとに伝搬時間が異なり、受信側の処理が複雑になる問題がある。そのため、現在の基幹網では一つの伝搬モードしか利用されていない。私たちはこの問題を解決するため、各伝搬モードで異なる光信号を精密に伝送制御する技術を開発した。2020年には、38コアで各コアが3伝搬モードの光ファイバーを用いた伝送実験を行い、世界記録となる毎秒10・66ペタビット(ペタは1000兆)伝送に成功した。この容量は、1秒間に40万個以上の4K動画を同時配信する通信量に相当する。
私たちはデジタル変革(DX)を遂げた未来の社会を支えるため、より効率的な光ファイバー通信システムの実現を目指して、今後も研究を続ける。
ネットワーク研究所・フォトニックICT研究センター・フォトニックネットワーク研究室 主任研究員 ラーデマッハ ゲオルグ フレデリック
ベルリン工科大学博士課程修了後、2016年NICTに入所。以来、大容量光ファイバー伝送システムおよびサブシステムの研究に従事。博士(工学)。