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時刻や周波数の比較、静止衛星で高精度に測定するNICTの技術

時刻や周波数の比較、静止衛星で高精度に測定するNICTの技術

NICT本部(東京都小金井市)2号館屋上に立ち並ぶアンテナ群

日常生活のリズムを作る時刻は、太陽の運行ではなく原子時計が刻む周波数から作られる。また時刻基準である協定世界時は、数百台の原子時計の周波数を平均して作られる。周波数の大小は時刻の進み遅れに相当し、ドイツの標準時を基準として定常的に測定されている。地理的に遠く離れた場所に存在する原子時計の周波数を比較するためには全地球測位システム(GPS)などの衛星を仲介する測定法が用いられる。

残念ながらそれらの測定法の精度は比較対象である原子時計の精度よりも低いため、現在秒を定義しているセシウム一次周波数標準の周波数差を検出するためには約1日の測定が必要となる。最近では光ファイバーを利用した高精度比較法が開発されているが、大陸間を結ぶ光ファイバーが測定のために利用できない。このため、情報通信研究機構(NICT)では静止衛星を仲介する測定法の研究に力を入れており、衛星経由では世界で最も高精度測定が可能な比較法を開発した。

GPSを仲介する比較法ではGPSから送信される信号を受信して測定に使用するため、衛星軌道、伝搬経路上の大気などが誤差要因となる。一方、静止衛星を仲介する方法では対になった地球局が信号を送受信するため、信号の伝搬経路が共通となり、ほとんどの誤差要因はキャンセルされる。しかしながら測定精度は信号の帯域幅に反比例するため、衛星のトランスポンダ使用料が高額となり、この方向からの高精度化は難しい。

そこで、私たちは信号の搬送波位相を利用する測定法を開発した。静止衛星では原子時計が搭載されていないため、トランスポンダでの周波数変換時に重畳される位相雑音はノイズとなるが、これを複数の信号を用い数学的にキャンセルすることに成功した。これにより、これまでの測定精度、秒の積算でサブナノ秒(ナノは10億分の1)からサブピコ秒(ピコは1兆分の1)まで向上させた。また、近い将来、秒を再定義するであろう光時計の比較を韓国やドイツの研究所と実施している。まだ光時計の精度と比較すると不十分であるため、引き続き高精度化に取り組みつつ他研究所への普及に取り組んでいく計画である。

◇電磁波研究所 電磁波標準研究センター・時空標準研究室 主任研究員 藤枝美穂
 京大院博士課程修了後、日本学術振興会特別研究員(KEK)などを経て2003年NICT入所。静止衛星や光ファイバーを利用した時刻・周波数比較技術の研究に従事。博士(理学)。

日刊工業新聞2021年9月28日

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