ビヨンド5Gで注目の通信資源「未踏テラヘルツ帯」研究の世界
スマートフォンをインターネットに接続するために利用している目に見えない電波。電波は有限な通信資源であるため、割り当てられたマイクロ波・ミリ波帯の周波数バンドが効率的に活用されている。一方、増え続ける情報量と高速通信へのニーズに応えて新たな通信資源の開拓とその適正な運用も必要だ。
次世代の情報通信基盤(Beyond 5G/6G)で注目される新たな通信資源が、電波と光の中間にある「テラヘルツ(テラは1兆)帯」である。そこは長く未踏周波数帯と呼ばれていたが、最先端ナノ・量子技術を駆使することで超高速無線通信へ向けた開拓が進んでいる。だが、この帯域の運用に資する周波数標準の開発は未着手のままとなっている。
周波数標準とは特定周波数の電磁波を放射する発振器で、いわば周波数の里程標になる。情報通信研究機構(NICT)では世界に先駆けて未踏テラヘルツ帯に新しい周波数標準を確立する研究に取り組んでいる。
NICTでは一酸化炭素分子の吸収線を参照基準に使ってレーザーを周波数安定化することで、法令上の電波の上限周波数(3テラヘルツ)付近のテラヘルツ標準を開発中である。「分子指紋領域」とも言われるテラヘルツ帯には多種多様な分子吸収線が存在するが、構造の単純な一酸化炭素にはテラヘルツ標準の誤差を小さくできる利点がある。
完成すれば約1000万分の1の周波数精度を持った新たな標準が誕生し、Beyond 5G/6G時代の技術基盤を支えることになる。将来は更に精度を高めて、現代物理学の検証という深遠なテーマにも役立てる考えだ。
他方、テラヘルツ周波数を精密に測る研究も進行中である。NICTが開発した小型テラヘルツ周波数カウンターは広い帯域で動作し、測定精度も世界トップの性能を誇る。このカウンターは電波産業などのニーズに対応して、NICTが提供するマイクロ波原子時計の較正サービスの範囲拡大に活用する予定である。
私たちは、情報通信技術による革新を目指し、新たな電波資源であるテラヘルツ帯を利活用する研究を推進し、NICT発のテラヘルツ標準のグローバルな普及を目指していく。
電磁波研究所・電磁波標準研究センター 時空標準研究室 主任研究員 長野重夫 00年東大院博士課程修了。独マックスプランク研究所などを経て05年NICT着任。光コムによる光周波数計測や光ファイバー周波数伝送、テラヘルツ周波数標準に関する研究に従事する。博士(理学)。