コロナ禍で拍車がかかる通信量の増加、世のニーズに合うのは定額制か?
【テレワーク浸透】
「(消費者が)通信容量の上限を意識するような使い方は時代に合わなくなる」。野村総合研究所の斎藤孝太プリンシパルは、新型コロナウイルスとの共生が求められる“ウィズコロナ”の社会における通信サービスの動向をこう分析する。
総務省によると、動画配信サービスの普及などに伴い、トラフィック(通信量)は年間2―4割のペースで増えてきた。新型コロナはこの傾向に拍車をかけた。6月上旬時点における平日昼間の通信量は2月下旬比で2―3割増加。休日昼間も同1―2割増えた。テレワークの浸透や、外出を控えたい意向が寄与したと考えられる。
【収益伸び悩み】
しかし、通信量の増加は必ずしも通信会社の収益につながるわけではない。家庭用光ファイバー通信回線(FTTH)をはじめとする固定通信は、従来、定額の料金体系の利用が多いからだ。携帯通信についても、自宅に固定回線を持たない学生が遠隔学習に使いたいといった需要が広がると、やはり従量制ではなく定額制が歓迎されそうだ。通信会社にとっては、トラフィックが増えても定額制では顧客当たりの収入が伸び悩む一方、管理コストや通信障害のリスクは高まるジレンマに陥る可能性もある。
それでもNTTの澤田純社長は「“蛇口”が増えているのは追い風」と、コロナ禍で拡大した通信需要を前向きに捉える。FTTH市場は新型コロナの感染拡大前から、緩やかではあるものの、拡大傾向が継続。MM総研(東京都港区)は、21年3月末時点のFTTH契約件数を、20年3月末時点比142万件増の3449万件と予測する。
【つながる機器】
モバイル関連は今後、第5世代通信(5G)やIoT(モノのインターネット)の普及が見込まれる。通信網につながる機器が増えれば、それに比例して契約回線数が伸びることも期待できる。
一方で「通信やIT(の恩恵)を享受した生活が前提になると、そこに取り残される人も出る」(野村総研の斎藤プリンシパル)。NTTドコモやKDDIといった携帯通信大手各社は新型コロナの影響を踏まえ、主に4―5月にかけて販売店の営業体制を縮小した。店舗は従来、高齢者などにスマートフォンの使い方を対面で分かりやすく説明するといったサポート拠点としての機能もあったが、それが損なわれた側面は否定できない。
携帯通信各社はオンラインでのサポートの充実を図るが「取り残される人を少なくする仕組みが公共性の点からも求められる」(同)。新型コロナは販売戦略や店舗の位置付けの見直しも迫っていると言えそうだ。(斎藤弘和)