【ディープテックを追え】石油からガスへ“主役交代”。利用のカギは粒状の物質
目に見えないガスを自由自在に操る粒状の物質「MOF(モフ)」。この素材の知見を求めて多くの企業が集まるのが、名古屋大学発ベンチャー、SyncMOF(シンクモフ、名古屋市千種区)だ。石油からガスへエネルギーの主役が移る中、同社はガス利用のスペシャリストとして事業を展開する。
“エネルギー革命”の主役
近年、脱炭素の流れから、石油に比べて環境負荷が低い天然ガスや水素の利用が進みつつある。こうした状況を、畠岡潤一社長は「これからはガスが“エネルギー革命”の中心になる」と指摘する。
ただ、ガスは体積が大きく運搬にコストがかかる。その上、同時に複数の種類を運ぶことができないなど制約も大きい。
その課題解決につながるのが、ガスの貯蔵や分解、吸着などの機能を持つMOFだ。金属イオンと有機配分子からなる多孔体で、目的に応じてジャングルのような骨格の大きさを変えたり、性質を変更したりできる。目的のガスが“きっちり収まる部屋”をMOFの中にいくつも用意するイメージだ。こうすることで対象にするガスだけが部屋の中にとどまり、運搬や吸着が容易になる。現在約10万種類ほどのMOFがあるといい、さらなる種類の開発も進む。
利用用途は多岐にわたり、プラントなどから排出される有害物質を吸着したり、発火性の高いガスを運搬しやすくしたりすることが挙げられる。畠岡社長は「本来近づけないガス同士を近づけることもでき、運搬の効率化などを図れる」と説明する。MOF自体の表面積も大きく、1グラムでサッカーコート1面に相当する。また大量合成すると1キログラム数万円程度の価格になり、繰り返し使うことが可能な点も魅力だ。
総合力に強み
シンクモフはMOFの製造だけでなく、設計や効果測定まで手がける総合力が強みだ。MOFは種類が多いことから「顧客に合わせてコンサルティングし、最適なものを提案できる」(畠岡社長)と力を込める。
特にMOFの効果計測には絶対の自信を見せる。同社の計測評価機器「MOF ANALYZER」は正確な温度制御の下、人工知能(AI)を用いてガスの量を最適化する。こうすることで、顧客が望む最適な圧力や温度帯で機能するMOFを選定することができる。
また、機器だけでなく、ソフトウエアも手がける。論文などのデータから、測定されていないデータをシミュレーションする。例えば、窒素のデータしかない論文から、そのMOFの二酸化炭素などその他のガスの効果を予想する。こうすることで、不足するデータごとに実験する必要がなく、顧客の事業展開のスピードが速まるという。また、実験することに危険が伴うガスでシミュレーションすることも可能だ。
要望は多岐にわたる
それ以外にも大気中のガスから二酸化炭素(CO2)や水素を選択的に分離回収する装置「MOFclean」など多種多様な装置を開発。場所を選ばす、ガスタンクを設置することができることにより生産性向上だけでなく、環境負荷の低減にも貢献する。
顧客もインフラ関連企業や化学メーカーなど、プラントでガスを使用する企業のほか、機械やハウスメーカーなど多岐に渡る。空気中の特定のガスを吸着したり、取り出したりすることで熱源として使うなど要望もさまざまだ。国内企業を中心に100社ほどと話し合いをしているという。
使用先が広がる中で、課題になるのはMOFの生産能力だ。現在は需要に応じて設備を借りることで補っているが、自前の設備やライセンス契約も検討する。現在は自己資金のみで経営するが、拡大フェーズに入ることを見据え、新規株式発行(IPO)など長期的な戦略を視野に入れる。脱炭素の流れに乗って拡大することが予想される市場を牽引する。
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