【ディープテックを追え】3Dプリンターが量産フェイズに、普及のカギは?
「3Dプリンターを作る訳じゃない。工作機械を作るんだ」。大型の3Dプリンターを製造するエクストラボールド(東京都墨田区)の原雄司社長は、あえて“自己否定”のような言葉を語る。
「材料ロスが無く、素早く物体を作る」と謳われながら、なかなか普及して来なかった3Dプリンター。それでも、同社は2021年9月から量産機の製造を始めた。普及への今後の道のりを聞いた。
普及を阻む3点
3Dプリンターは3次元の図面から物体を作る機械のこと。方法はさまざまあるが、近年、一般的なのはインクジェットプリンターのように、液化した材料を添付し目的の物体を積層する方式だ。
ただ、既存の製品には難点もある。それは、積層できる素材の制限と積層物のサイズが小さい、製造スピードの遅さの3点だ。特に、素材の縛りは普及の足かせになる。現在は、装置メーカーが指定する素材でしか、積層を行えないものも多い。製品の強度などに直結する素材をオープンにしなければ、普及は難しい。原社長は「日本の製造業で使ってもらおうとすると、素材の縛りを無くしつつ、短時間で積層しないといけない」と分析する。
大型の3Dプリンター
エクストラボールドが製造する3Dプリンター「EXF-12」は一般的なペレット材料を融解し、積層する方式だ。最大で高さ1メートル、幅1.7メートル、奥行き1.3メートルの部材を製造できる。技術の肝はペレット材料を押し出す「プリントヘッド」と呼ばれる部分だ。プラスチック成形に広く用いられる射出成形スクリューを改良し、最大で1時間で15キログラムの積層を行えるようにした。積層するものにもよるが、これまでの機器よりも5分の1ほどの時間で製造できるという。同社は現在の射出成形の改良製法として訴求する。
将来的には、マシニングセンタに取り付け可能なプリントヘッドを開発し、工作機械への”転用”で利用できるようにしたいという。
現在のコンセプトでも構造物の基本造形のみを3Dプリンターで製造し、切削仕上げすることも想定している。既存の機械を転用できれば、コスト面や利便性の点から普及が早まるとにらむ。開発した3Dプリンターに搭載したコントローラーをファナック製にするなど、工作機械を意識した作りになっている。原社長は「製造業が3Dプリンターを使いたくない理由を潰していくことこそ、普及につながる」と強調する。
製造は農業機械などを製造するKOBASHI HOLDINGS(コバシHD、岡山市南区)傘下のKOBASHI ROBOTICS(コバシロボティクス、岡山市南区)が担う。年間10台ほどの受注を予定している。すでに自動車部品の前田技研(愛知県岡崎市)への導入が決まっている。価格はフルパッケージで6千万円台。
メンテナンスも工夫
また、部材はミスミのデジタルサービス「meviy(メヴィー)」を活用している。顧客からの問い合わせには、メヴィーの部品番号を指定し、対応する。修理の際に必要な部品を人の目で確認する必要が無くなる。3Dプリンターはカスタマイズの幅が広い。その点から顧客自身で機械の状況を把握する方が管理しやすいからだ。同社は納入先から技術者を受け入れ、3Dプリンターの整備やカスタマイズを指導する計画だ。
今後の展望は、ペレット材のみに対応している材料の幅を広げること。例えば、金属とプラスチックを混ぜ積層し、プラスチックのみを融解することで金型の代わりにする。そのほかにも切削の際に生じる切り子をリサイクルしたり、タンパク質を積層することで人工肉を作りたいという。原社長は「製造業で活きるデジタル技術や人材を作っていきたい」と話す。
〈関連記事〉これまでの【ディープテックを追え】