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【ディープテックを追え】夢のリチウムイオン電池の実現へ。そのカギは?

#28 スリーダム

「燃えにくく、寿命やエネルギー密度に優れた電池。リチウムイオン電池の欠点を補う、まさに“夢”の電池を実現するカギはセパレーターにある」-。こう話すのは、スリーダム(横浜市神奈川区)の小黒秀祐副社長だ。「全ての移動体の電動化を図る」という同社のミッションを実現する手段や技術について探った。

デンドライトを乗り越える

リチウムイオン電池を構成する要素は主に四つだ。リチウムイオンを離したり、留めたりする役割を持つ正極と負極、イオンを媒介する電解液、そして正極と負極を絶縁するセパレーター。

電池研究の歴史は古く、多くのブレークスルーが起こってきた。それでも乗り越えられない課題がある。負極の表面にできる針状の金属結晶「デンドライト」の存在だ。

デンドライトは成長し、正極に触れると発火する恐れがある。また、電流の分布が不規則になることで、バッテリーの劣化を早める原因になる。デンドライトを抑制するため、正極や負極、電化液の研究は取り組まれてきた。一方、セパレーターは他の材料に比べて、研究の蓄積が浅い。このため、二次電池のブレークスルーを起こす“ラストフロンティア”とみられている。

同社開発のセパレーター

スリーダムが開発したのは、独自の「三次元規則配列多孔構造」を持つセパレーターだ。同社はセパレーターの孔(穴)を規則的に配置することで、電流の分布を均一にした。これまでは穴が不規則に空いているため、正極と負極を行き来するリチウムイオンの反応が不均一になり、デンドライトが発生する原因になっていた。パナソニックで長らく電池研究に携わってきた小黒副社長は「電池メーカーにとってセパレーターは『いかに価格を落とすか』という対象だった」と語り、「二次電池の性能にブレークスルーを起こしたい」と意気込む。

実際、同社のセパレーターは耐熱温度が400度と、これまでに比べ100度以上高く、燃えにくい。また、空孔の割合も汎用品に比べて30%以上多い。これにより、電解液を多く保持でき、電池の寿命やエネルギー密度を高めることができた。

量産ライン開始

リチウムイオン電池
リチウム金属電池

当面は、電池の寿命やエネルギー密度を高めた二次電池の開発を急ぐ。2021年10月からはセパレーターの量産ラインを稼働する。22年度中には性能検査を実施し、リチウムイオン電池への活用を目指す。今後は量産ラインを使い、製造ノウハウを自社で蓄積しつつ、将来は他社での製造を想定する。

研究開発を指揮する成岡慶紀ゼネラルマネージャーは「将来は、年中気温が高い地域向けに発火性の低い高粘度の電解液を使った『耐高温電池』や、負極にリチウム金属を使う『リチウム金属電池』の研究開発も続ける」と展望を話す。

電池残量を予測

富士経済(東京都中央区)の調査によると、24年の車載向けリチウムイオン電池の市場規模は19年度比で2.6倍の6兆7403億円に膨らむと予想する。その他の小型製品や蓄電池向けの需要も増加するとしている。

小黒副社長

電池の用途が広がる中で、製造した電池の容量を余すことなく使い切る視点も必要だ。例えば、電気自動車(EV)には適さなくなった電池を、家庭用の蓄電池に活用する。このような中古市場の実現には、電池の容量を定量的に監視し、改ざんができない形で共有する必要がある。

スリーダムは電池容量の残存価値を予測し、ブロックチェーンで監視するシステム「BRVPS(ビーアールブイピーエス、Battery Residual Value Prediction System)」も手がける。製造された時点から、電池の使用状況をモニタリングし、企業や個人が中古の電池を安心して購入できる仕組みを構築する。

スリーダムが電池の周辺システムを包括するように事業展開をするのも、歴史を繰り返さないためだ。2000年代は有数の“電池生産国”だった日本も、韓国や中国メーカーとの価格競争に陥った。同社は単なる電池の「物売り」から脱し、周辺サービスも含めた提案を模索する。小黒副社長も「電池の性能を高めることや用途広げるのではなく、いかに安く作るかの競争には限界がある」と口にする。開発するセパレーターも、価格競争には距離を置き、性能の良さを訴求していく。需要が高まる市場で同社がシェアを確保できるか、注目だ。

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小林健人
小林健人 KobayashiKento 第一産業部 記者
二次電池はEV普及に向け、需要が高まっています。EVは価格の半分を電池が占めるとも言われるため、コスト圧力が普及に向けて強まっています。ただ、廉価な材料を使うことによる性能の低下や安全性に問題が生じるなど、「性能と価格」の均衡点は見つかっていません。良いものを長く使う方が個人的には環境に良いと感じます。

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