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【ディープテックを追え】レアメタルを高純度回収。水平リサイクルに挑む

#27 エマルションフローテクノロジーズ

リチウムイオン電池など二次電池の触媒として広く使われる、ニッケルやコバルト。これらはレアメタル(希少金属)と呼ばれ、需要が高いのに対し、生産地域が限定的で高騰しやすい。また、埋蔵量も限られ、持続可能な資源ではない。このため資源リサイクルが有効な施策として期待されている。

日本原子力研究開発機構発ベンチャーのエマルションフローテクノロジーズ(EFT、茨城県東海村)は、「エマルションフロー」という溶媒抽出技術でレアメタルを電池から回収し、電池の材料に利用する水平リサイクルに挑む。

既存の弱点を克服

溶媒抽出は、水と油のように互いが交じり合わず、離れる作用を使い、目的物を回収する方法。一般的なのは「ミキサーセトラー」だ。例えば、金属イオンを含んだ水と抽出剤を含んだ油を混ぜ合わせた後、分離させる。その際にできる油層と水層の界面上で抽出剤が金属イオンと結合するプロセスを経て、目的の物質を回収する。

従来の方法では物質を混ぜた後、時間を置いて分離させる必要があり効率が悪かった。また、界面上での油層と水層の密集度が不均一なため、純度の高い物質を抽出できなかった。

エマルションフローの様子。細かい泡を連続的に発生させ、反応を行う

エマルションフローはこの「効率が悪く、純度が低い」という課題を解決する技術だ。水と油の液滴をノズルから均一に噴出することで、目的物を抽出する界面の密集度を高める。小さい泡を無数に作ることで、水と油の接触面積を増やす仕組みだ。

最も反応が進む部分の通り道を細くし、液の速度を減速させることで反応の効率を高める。これまでの液体を「混ぜる、(時間を)置く、分離する」という3工程を、エマルションフローでは液体を「送る」という動作一つで実現した。EFTによれば、これまでの溶媒抽出に比べ、10倍の生産効率と5分の1のランニングコストを実現したという。

レアアースも回収する

多段エマルションフロー

さらに、同社は反応処理を連続的に行う多段エマルションフローを確立している。利点はより純度の高い目的物を得ることができる点だ。さまざまな金属が交じり合った排水や化学的特性が似通ったレアアース(希土類)を抽出することもできる。鈴木裕士社長は「産業利用に向けて、(多段エマルションフローを)500リットルの規模まで大型化したい」と話す。

水平リサイクルモデルを構築

国内外を問わず、自動車各社が2030年から40年をめどにガソリン車からの撤退を表明している。電気自動車(EV)の普及で懸念されるのが、電池需要の逼迫(ひっぱく)だ。それに伴い、触媒に利用される金属の需要も高まると予想される。同社は30年ごろまでに水平リサイクルの仕組みを提供する計画だ。

電池の中間処理業者から買い取った廃材から、EFTがレアメタルを抽出する。抽出したレアメタルを電池メーカーに販売。再加工し、電池としてEVやハイテク製品に利用する構想だ。

資源リサイクルのエンビプロ・ホールディングス(HD)との共同研究もこのビジネスモデル実現に向けた一手だ。これ以外にも30社ほどと技術活用の話を進めているという。

長縄CTO(左)と鈴木社長

課題は資金と人材の規模だ。鈴木社長は「設立こそ(21年4月と)浅いが、基礎研究の段階ではなく、産業化のフェーズに近い」と話す。そのうえで「資金調達額もシードラウンドだが、今後も調達していく」と現状を説明する。技術面を担当する長縄弘親最高技術責任者(CTO)も「原子力機構で研究していたころとはスピード感が違う。実用化にもっていくためには人材も必要」と口にする。また、純度の高いレアメタルの水平リサイクルを実現した例はなく、「売り込みのためには、まず自分たちが実績を上げないといけない」(鈴木社長)という事情もある。今後は資金や経験のある人材を集めながら、実績を積み、他社にアピールしていく計画だ。

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ニュースイッチオリジナル
小林健人
小林健人 KobayashiKento 第一産業部 記者
電池需要の高まりからレアメタルの高騰は予想されています。また、精錬の多くは中国で行われるため地理的リスクもあります。ある程度のコストが生じた場合でも高純度のレアメタルを回収できるのであれば、ビジネスとしては成立するでしょう。今後は産業的応用に耐えられるだけの品質の向上に期待したいです。

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