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ミシュラン1つ星とのコラボも 小さな竹箸メーカーのブランディングに学ぶ

ミシュラン1つ星とのコラボも 小さな竹箸メーカーのブランディングに学ぶ

ヤマチクの自社ブランド「okaeri」

創業から国産材の竹箸だけを作り続けるヤマチク(熊本県⽟名郡南関町)は2019年に自社ブランドを立ち上げた。コロナ禍により家で過ごす時間が増加したことや、環境配慮から脱プラスチック箸の動きなどもあり、自社ブランド商品の月次の売上が立ち上げ時の20倍になった。それまで主にOEM生産を行っていたが、現在は自社ブランド製品の売上が4割を占めるようになった。同社3代目の山崎彰悟専務にブランド立ち上げの背景について聞いた。 (取材・昆梓紗)

手書き受注書からのスタート

「ブランド構築以前に、生産管理すらもきちんとできていない状態で…手書きで受注書を作ることからはじめました」―山崎専務は、同社に入社した8年前をこう振り返る。安い輸入材を使用した箸やプラスチック箸が市場の9割以上を占める状況下で事業を継続していくには、しっかりとした生産体制が不可欠と考え、1~2年かけて社内を改善。地道な活動を続け、生産量が増え残業が減るなどの効果が出た。

箸の製造の様子

生産改善の成果が上がっていく一方、OEM依存への危機感が募っていった。OEMの場合、受注量が先方都合で決められ値上げがしにくい。また、最終顧客との距離が遠いことで、自分たちが伝えたい商品の良さを直接伝えられないもどかしさが強かった。

自社ブランド構築には在庫を抱えるなどのリスクがある。それでも、同社はブランド構築に舵を切った。「意志を持って商品をつくり価格を決め、良い評価も悪い評価も自分たちで受け止めることにしました。それが従業員のやりがいにもつながると思ったのです」(山崎専務)。

ブランド構築はゼロからのスタートだった。「社内で勉強会を開いて小売業界の基礎から学んだり、都内の展示会を視察したり。初めて東京に出るメンバーもいて、電車に乗るためのICカードの使い方すら分からない―まさに手探りでした」(山崎専務)。

とはいえ、まったく新しいコンセプトを打ち立てたわけではない。50年以上にわたり続けてきた「竹の箸だけを作り続けてきた」という実績や誇りを言語化し、価値を再定義していった。
 そこで鍵になったのがプロジェクトメンバーや箸の作り手。多くが主婦である彼女たちが、本当に使いやすく、買いたいと思うデザインや価格であることを特にシビアに見ていった。「見栄えが良く高価格帯の商品を作るブランディングもあると思いますが、こだわったのはあくまでも『暮らしの道具』としての箸」(山崎専務)。昔は多くの家庭で当たり前に使われていた竹箸をもう一度使ってほしいという願いを込めたブランドになった。

自社ブランド「okaeri」

また、箸メーカーだからできる技術や作り込みも特徴だ。箸はつまむ機能ばかり注目されがちだが、実は、割く、混ぜるなど多くの用途がある。さらに見た目のデザインだけでなく、口当たりや抜け感なども重要だ。細やかな調整を武器に、今ではミシュラン1つ星を獲得したレストランなど多くのコラボ商品を展開している。

2年ほどかけて自社ブランド商品を開発し、19年4月より販売を開始。はじめは展示会や全国のポップアップストアにとにかく出店した。「時流が重なり、タイミングが良かった」と山崎専務が話すように、ブランドの躍進を後押ししたのがSDGsなどの環境配慮の動きと、コロナ禍だ。

環境問題に関しては早くから意識していたこともあるが、19年にはピエトロのレストランにプラスチック箸の代替としてコラボレーション箸を導入。これがメディアに取り上げられるなど話題になった。また、コロナ禍以降は家で食事をする人が増えたことを背景に売上が伸び、ECサイトの売上がコロナ禍前の10倍に拡大した。各地のポップアップストアでも売上が伸び、そこから常設販売されるようになるなどの動きもあった。販売開始当初20万円だった月次売上は現在400万円にまで伸長した。

ポップアップストアの様子

一方、コロナ禍では百貨店や商業施設が営業自粛となり、イベントが中止になるなど、販売機会が失われることも多かった。「それまでは都市部に商品を置いてもらうことを優先していましたが、地元に活気をもたらすことも重要だと気付きました」(山崎専務)。

同じようにコロナ禍で売り先が少なくなった知り合いの中小メーカー12社に声を掛け、20年11月に自社工場で販売やワークショップを行うイベントを開催したところ、人口1万人の町に約2200人が来場した。このイベントは21年には別のメーカーが主体となり、滋賀県で開催予定だ。このイベントは売上をつくるだけでなく、中小メーカー同士がつながることで悩みやノウハウを共有することも目的の1つだという。

工場で開催したイベント「大日本工芸市」

「自社ブランドを確立していなければ、コロナ禍によって潰れていた」と山崎専務は話す。インバウンド需要やお土産需要が失われたことで、OEMの受注が大幅に減った。自社ブランドが成長したことで、一時落ち込んだ売上も4ヶ月後の20年9月にはV字回復できた。自社ブランド商品を見て新規にOEMの話が持ち込まれることもあった。

同社の目標は、竹箸をもう一度日本のスタンダードにすること。「竹箸は使い勝手が悪いから使われなくなったのではなく、製造側の都合でなくなった。若い人や竹を切ってくる職人さんが働き続けられる、継続性のあるビジネスモデルにしていきたい」(山崎専務)。ブランドの発展は、自社だけでなく、業界全体の存続につながっている。

山崎彰悟専務
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
実際にヤマチクの箸を使ってみました。素朴でしっくり馴染むデザインながら、食洗機にも対応しているというまさに生活の道具。 「手に取りやすい価格、生活の道具という身近な存在ではあるものの、手を抜かずに仕事をしています。それこそが伝統的な『メイドインジャパン』だと考えている」と山崎専務は話していました。

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