雇用の多様化は「当たり前」 チョコレート企業が実現するSDGs
ナッツやドライフルーツ、チョコレートが溶けあい美しいマーブル模様を描くチョコレート菓子「久遠テリーヌ」。この人気のチョコレートを製造販売するのが、一般社団法人ラ・バルカグループの「久遠チョコレート」だ。全国に51店舗を展開する同ブランドでは、障がい者や引きこもり、働く時間が限られている子育て中の主婦や介護従事者などが、存分に力を発揮している。
同法人理事長で、QUON CHOCOLATEプロジェクトの夏目浩次代表は「社会貢献という意識はなく、働きたい人、挑戦したい人が挑戦できる場づくりは当たり前のこと」と話す。(取材・昆梓紗)
ニュートラルに伝える
夏目代表が事業を開始したのは2003年。障がい者の働く場が限られていること、働けたとしても低賃金しかもらえないことを知り、「ただナンセンスだと思った」(夏目代表)と振り返る。パン工房からスタートし、14年に久遠チョコレートを立ち上げた。そこから全国にフランチャイズを展開している。
「例えば福岡のある店では全員がお母さん、熊本では引きこもりや社会に馴染めずに悩んでいる若者など、店舗によって働く人もさまざま」(夏目代表)。勤務体系や勤務内容も各自の事情に合わせ、9時から15時までの勤務にしたり、人とあまり顔を合わせずに働ける仕事を分担したりと柔軟に対応している。
積極的に社会的弱者の雇用の場をつくる取組みを進めている同法人だが、店舗には特にそのようなメッセージは掲出されていない。かわりにチョコレートへのこだわりや、商品の特徴が店内を賑わせている。ホームページを覗けば企業概要の中で知ることができるが、情報発信のバランスについて夏目代表は「(雇用の取り組みに関して)力んだ発信をするつもりはなく、隠しもしない。ただニュートラルに伝えている」と話す。
顧客の受け取り方はさまざまだ。ブランド姿勢に興味を持ち、共感して購入する場合もあれば、背景を知らず、商品そのものに魅力を感じ手に取る顧客も少なくない。
チョコレート製造はショコラティエの野口和男氏に監修を受けているものの、同法人で製菓のキャリアを持つ人材は全体の5%。それでも独自に商品開発を進め、チョコレートだけでなく半生菓子、焼き菓子など多くの商品を揃える。中でも、全国に店舗がある強みを生かし、各地の名産を使った久遠テリーヌが好評だ。「小手先化せず、情熱をこめておいしいものをつくる。それが地域に根差すことにつながっている」と夏目代表は強調する。
コロナでの変化
久遠チョコレートは、20年に過去最高の昨年度比4倍の増益となった。「コロナ禍で潮目が変わったことを強く実感している」と夏目代表は話す。商品そのものの価値だけでなく、ブランドの背景に共感する消費者が増えたことが影響しているとみている。チョコレートは嗜好品。日用品や消耗品に比べ、価格の安さや機能よりも、おいしさやブランドのストーリーが購入時の優先順位に上がりやすい。「(多様な雇用や商品づくりに)真剣にもがき挑戦を続ける姿が共感を呼んでいるようです」(夏目代表)。
同法人の挑戦は続いている。18年には愛知県豊橋市に「久遠チョコレート豊橋SDGsラボ」を開設し、ベルシステム24ホールディングスと共同で運営。ベルシステムの雇用する障がい者と、QUONの従業員がともに製品をつくり、全国に発送している。この取組みは、2018年第2回ジャパンSDGsアワード内閣官房長官賞を受賞した。
「いままでの経済活動では一定のやり方に合わない人たちは切り捨てられ、失敗すればそこで終了という場合が多かったと思います。けれど、それで本当に“晴れやかな空”ができるんだろうか。多様な人材をパズルのように組み合わせた仕組みが、これからの経済の自然な形になっていくのではと感じています」(夏目代表)。さまざまな素材が溶けあって味のハーモニーを織りなす久遠テリーヌのように、久遠チョコレートは多様な人材の良さを活かしながらひとつのブランドを作り上げていく。