デザインはなぜ大切なのか?社会の動きから考える、デザインのはたらき、企業との関わり

デザイン評論家・柏木博氏インタビュー

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ブランディングや経営戦略など、ビジネスを推進する資源としてデザインの力を取り入れる企業が増えている。環境負荷を考慮してラベルを無くしたペットボトル飲料のパッケージ、製造業で培った技術を応用したD2Cプロダクトといった、社会課題の解決や従来の業界構造の変革までをデザインの対象にした事例も目立つ。

歴史的な視点で見ると、デザインは産業革命や暮らしの変化と関連して変革が起きた場面も多い。コロナ禍による生活の変化、加速するデジタルシフト、世界全体の共通指標として掲げられるSDGs。生活様式や価値観が変容する昨今、社会の動きはデザインにどう影響を与えるのか。また、デザインは変わりゆく社会にどうはたらくのか。デザイン評論家の柏木博氏にデザインが注目される背景やそれを読み解くヒントを聞いた。(聞き手・濱中望実)

柏木博(かしわぎ ひろし)
デザイン評論家。近代デザイン史専攻、武蔵野美術大学名誉教授、英国王立芸術大学名誉フェロー。『視覚の生命力』岩波書店、『しきりの文化論』講談社ほか。

企業とデザインの関係

−−ビジネス領域でデザインの力が注目されています。
 ビジネスにおけるデザインの啓蒙活動には、事業の根底にある「思想」や「社会の中で担う仕事」を表明する役割があります。言葉やデータで力を示すのも大切ですが、経営と直接関わらない人にも受け取りやすく、企業への理解や共感につながる情報として、デザインが改めて重要視されていると見ます。
 逆に、デザインが曖昧な状態は『どんな考えを持ち、何をしているかが不明瞭』とも言えます。明快な情報がなく、一見何をしているかわからないビジネスは、周囲から理解される術を失う危険もあるのではないでしょうか。

−−企業活動とはどのような関係がありますか。
 デザインは、人々が身の回りの環境や社会の状況を知る上でカギとなる重要な情報です。そして、企業にとっては組織の理念や文化を世の中に伝えていく「コミュニケーション手段」でもあります。
 例えば海外旅行に行ったとき、私たちは道ゆく人の服装や街並み、建築、食事などを見て、そのデザインから現地の文化を理解しようとします。同じように、日常生活で触れるプロダクトやサービスのデザインからは、無意識なことも多いのですが、その作り手である企業を理解しようとしています。消費者に企業としてのメッセージを伝える最初の一歩がデザインと言えるかもしれません。

デザインが注目される背景、社会課題の動き

−−近年、ビジネスだけでなく社会全体でデザインが注目される背景は。
 少し広い視野で考えると、社会課題として扱われる大きなテーマとして世界の『分断』が挙げられます。貧困や差別など、自分とは違う立場の相手に壁をつくってしまう対立構造です。SDGsが解決を目指す課題にも近い内容が挙げられています。
 この『分断』を解決する取り組みとして、デザインが注目されている状況にあります。その際、誰か1人が独自に改革を起こすのではなく「多様な立場の人が課題を共有し、協力して解決を目指す」動きが顕著です。キーワードとしては、Association(組合・組織)、Solidarity(連帯)、common(共有)があると考えます。

−−具体的な動きは。
 環境や経済の仕組みを変革することが強調されています。カーシェアリングやコワーキングスペースなど先述の「共有」の文脈につながる新しいビジネスモデルもでてきました。企業経営においては、専門分野が異なる人同士の協業事例も増えています。
 既存のシステムを問い直し、持続可能な社会をつくろうとする活動は、「世界をよく観察し、課題を見つけ、解決策を考える」というデザインの本質的なプロセスに通じていると思います。

−−過去に、世の中の動きと関連してデザインに変革が起きた例はありますか。
 日本における事例の1つに、明治維新が挙げられます。社会の仕組みや衣食住のデザインに外国の文化が多数取り込まれましたが、その過程の中心には「(海外から来た)品物」を見て、相手の文化を取り入れようとする人々の行動がありました。文献などの「言葉」ではなく、目に見える『デザイン』から得られる情報が生活を変化させた流れは、世の中の動きとデザインの動き、両方が影響しあった変革として興味深いです。

−−コロナ禍も生活を大きく変化させました。
 コロナ禍での生活は、視点を変えれば、日常的にデジタル技術に触れる暮らしを作ったと考えられます。デジタル機器の操作や遠隔のコミュニケーションも、これまでの生活様式の代替策にとどまらず、従来の社会が抱えていた課題を解決したり、心地よい暮らしを実現したりする新たなデザインにつながる可能性があります。

−−社会がデザインを変えることもあれば、デザインが社会を変えることもあります。
 社会とデザイン、どちらか一方が影響してもう一方を変化させる(変化させた)と結論づけられないこともあり得ます。両者の動きが相互に作用し合う『中動態(能動態でも受動態でもない状態)』の関係があると言えます。

これまでとこれからを読み解くために

−−日常生活でデザインを読み解くヒントは。
 人間が視覚から得る情報の多くは無意識(受動的)に取得されています。デザインを知り、考える力を養うには「自分が見ている世界を能動的に知ろうとする訓練」が重要です。
 方法は大きく2つあります。1つは自分の身の回りを改めて観察し、気になったデザインについて理由や歴史を調べること。「なぜ?」という視点を持ち、身近な物事を見つめ直すと、背景にある生活様式の特徴やそれを支える技術の存在に気づきます。その発見は、日常で目にするデザインを理解したり、より良い暮らしを形にしたりする助けになります。
 もう1つは、先行事例を調べることです。デザインは、人々の価値観や時代の変化によってアップデートを重ねています。時代ごとのデザインの動きを捉え、自分なりに解釈することで、現在置かれている環境を変化させる新しい視点に出会えます。

−−これからのデザインに求められることは。
 常に考え続ける姿勢です。物事の決め方、進め方が従来の方法ではうまくいかない時も、考えることをやめてしまったら、前に進めません。
 デザインには「計画する」という意味もあります。問題の原因や理由を考え抜き、解決のための計画を立てる。その際、1人で抱え込むのではなく、多様な人々と課題意識を共有し、協力しながら解決に取り組むアプローチが求められています。

ニュースイッチオリジナル

COMMENT

濱中望実
デジタルメディア局コンテンツサービス部

社会の変化や日常生活を観察する活動には、ただ「デザイン」という言葉を検索するだけでは見えてこない学びや発見があります。その過程では自分自身が好きなものや心地よいと感じるデザインを見つけることも大切です。柏木先生が長年活動されてきた日本デザインコミッティーでは、企画展『私の好きなデザイン 2021』を8月に開催予定とのこと。参加にあたって「(展示に参加する)メンバーそれぞれが“自分の好きなデザイン”を紹介することで、一人一人が持っている物事の見方・考え方に興味を持ってもらえるきっかけになればいいな」とコメントされていたのが印象的でした。本を読んだり、物を見たり、色んな視点から世界を観察するのが好きという柏木先生が何を出品されるかにも注目です。

キーワード
デザイン

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