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2022年にもロケット打ち上げへ。大分県が準備する「水平型宇宙港」の全容

2022年にもロケット打ち上げへ。大分県が準備する「水平型宇宙港」の全容

ヴァージン・オービットによる飛行機を使ったロケットの打ち上げ : Virgin Orbit/Greg Robinson.

大分県では大分空港(大分県国東市)を活用した水平型宇宙港の実現に向けて準備が進む。2020年春に米国のヴァージン・オービットが同空港をアジアで初めての宇宙港として利用すると決定。最速で22年の打ち上げを目指す。宇宙港をきっかけに地域はどのように変化するのか。関係者の期待が高まっている。(東九州支局長・宗健一郎)

水平型宇宙港は、空港から離陸した航空機が高度1万メートル付近で人工衛星などを載せたロケットを切り離して打ち上げる。ヴァージンは今年6月、この手法を用いた商業用打ち上げに成功した。

同社は既に米国や英国に宇宙港を持つが、小型衛星の打ち上げ需要は増加傾向で発射設備は不足気味という。大分は設備を新設せず、既存の空港を使うのが大きな特徴だ。

大分県は「先端技術への挑戦」を県の主要施策に掲げる。人工知能(AI)や遠隔操作ロボット(アバター)など関連産業の振興に力を入れており、これらの先端技術と宇宙事業との親和性は高い。同県先端技術挑戦課の堀政博主幹は「他の地域にはない付加価値の高いサービスが生まれるのでは」と期待する。

民間の動き活発

宇宙港の誕生による経済効果はどのようなものが見込まれるのか。期待が高まる中で民間の動きも活発化しつつある。21年2月には、一般社団法人・おおいたスペースフューチャーセンター(森秀文理事長=オーイーシー会長)が発足した。新たな宇宙産業の創造、人材育成のための情報提供、ネットワークの構築を目的に掲げる。会員企業数は初年度の目標としていた30社を既に上回り、8月時点で34社に到達。地域の関心の高さがうかがえる。

同センターは会員制の宇宙ビジネス創出拠点「スペースベースQ」を大分市に開設した。目に見えにくい宇宙ビジネスを形にし、新たな関連産業や新サービスの創出につなげるのが狙いだ。

スペースベースQにはスクリーンを配したスタジオやワークショップスペースなどを設けた。企業や個人、学生が集い、自由に意見交換する。これまでに「スペースポートと未来の街づくり」「衛星データの活用」などのテーマで有識者を招いたフューチャーセッションを定期的に開催してきた。

「参加者同士の意見交換を通じて新しいことへチャレンジしようという機運が高まっている」と話すのは、同センターの高山久信専務理事。関係者の盛り上がりを受け「宇宙港と街づくり」を皮切りに、「宇宙食」「衛星データ利用」などをテーマにしたワーキンググループを、10月以降相次いで発足する計画もある。

スペースベースQで行われた、フューチャーセッション

また、高山専務理事は「当初は宇宙港というハードウエアができる感覚だったが、これを取り巻くいろいろなものを変えていく必要があるという認識が徐々に広まりつつある」と関係者の意識の変化を感じる。

既存の空港を使った宇宙港の実現に向けて、まず必要となるのは関係する法令などの整備。現在、大分県が国や関係機関との調整を続けている。また大分空港と市街地を結ぶ交通アクセスの充実も課題だ。

おもてなし

さらに、打ち上げに伴う関係者向けの衣食住の充実も大きなテーマ。飛行機を使ってロケットを打ち上げるヴァージンの場合、打ち上げに関連するクルーは30―40人規模が想定される。滞在が数カ月から1年に及ぶケースもあり、家族とともに長期滞在することもあるという。あわせて、ヴァージンにとっての顧客である衛星の所有者らも打ち上げに立ち会う可能性がある。彼らに提供する飲食や宿泊などのサービスは高い水準のものが求められる。観光事業者を中心とした高いレベルでの“おもてなし”に期待がかかる。

「アジアで初めてのものを大分のみんなで考える。誰でもチャンスがあるし、誰もが関わることができる」。高山専務理事は地域に向けた宇宙港のさらなる周知に意欲を見せるとともに、宇宙事業への積極的な参画を呼びかける。

日刊工業新聞2021年9月28日

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