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現在の技術で月や火星への有人輸送はできる?宇宙飛行士・野口聡一さんの見方

近年、民間企業が有人宇宙輸送に進出している。米スペースXの宇宙船「クルードラゴン」が民間初となる有人宇宙飛行を行い、米ヴァージン・ギャラクティックも開発中の有人宇宙船による試験飛行に成功した。月や火星への有人探査や宇宙旅行の実現が現実味を帯びる中、クルードラゴンに搭乗し、3回目の宇宙滞在を終えた宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙飛行士の野口聡一さんに今後の宇宙開発について聞いた。

―米国で民間の動きが活発です。

「米国では宇宙分野の知識がなくても、長年培ってきた技術の豊富さから新事業を一から立ち上げられる。当初は資金力や買収企業の寄せ集めだが、すぐに企業文化が成り立ち民間宇宙飛行などの成功につながる。何十年も積み重ねた重厚長大な企業から“ニューカマー”の時代に変わりつつある」

―現在の技術で月や火星への有人輸送は可能でしょうか。

「十分射程圏内だろう。月に関しては月面着陸時の自律制御や、地球帰還時に再離陸して軌道に入り直す技術が難しい。現在、スペースXが開発中の完全再使用型ロケット『スターシップ』の試験飛行に挑戦している。その成功によって、より実現性が見えてくる」

―中国が宇宙開発で目覚ましい成長を遂げています。

「今は政治的な対立も含めて簡単には協力できないが、技術的な対話の糸口を絶やしてはならない。国際的な問題を解決しつつ、いかに大きな枠組みの中に中国を取り込むかが今後10年間の課題だ」

―宇宙旅行に向けた開発も進んでいます。

「宇宙飛行士は月や火星の探査を目指すだけでなく、宇宙飛行の経験を生かして一般の人が宇宙旅行する時の水先案内人のような役割も担える。民間宇宙船の開発が進んだことで、宇宙飛行士の活躍の場が広がっている」

―今後、日本では再使用型ロケットの開発が進められます。

「米国は民間が低コスト化に向けて再使用型を前提に開発を進めてきた。一方で、中国やロシアは労働単価が安く、一回きりの打ち上げでも採算がとれるため再使用型は採用していない。日本はどちらが良いかと考えると、労働単価が高いためコストを抑えるには、再使用型にする以外に道はないと感じる」

【記者の目/独自の開発スタイル確立】

月や火星への有人探査計画が進む中、米国では民間企業が技術力を高め、政府機関と対等な立場を確立している。民間企業の協力なしに宇宙開発を進めることは難しい。日本でも多くの企業や大学が宇宙分野に進出しているが、まだ発展の余地がある。より開発を進めるには日本に合った独自の開発スタイルの確立や、官民・国際協力などの強化が必要だろう。(飯田真美子)

日刊工業新聞2021年7月14日

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