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日本ベンチャーが奮闘も…宇宙旅行は身近になるの?

ZOZO前沢氏が世界発の乗客に
日本ベンチャーが奮闘も…宇宙旅行は身近になるの?

前沢社長が宇宙旅行で乗るBFRのイメージ(スペースX提供)

 実業家の前沢友作氏が月旅行の挑戦を表明するなど、民間主導の宇宙旅行が話題になっている。人類の夢ともいえるこの挑戦を支えるのは、米国などの大手企業を率いる創業者たちだ。莫大(ばくだい)な資産を投じ、自社製のロケットを開発。ロケットの再利用などで費用を抑え、宇宙旅行を実現しようとしている。日本でも宇宙ベンチャーが動きだしている。将来は宇宙旅行が身近になる日が来るのだろうか。

 「これは僕の一生の夢。子どものころから月が好きだった」―。ファッション通販サイト「ゾゾタウン」を運営するスタートトゥデイ社長の前沢氏は、月への思いをこう語る。

 米宇宙ベンチャーのスペースXが18日に米国で開いた発表イベントでのことだ。前沢氏はスペースXによる月周回旅行の世界初の乗客になる。出発は2023年を予定している。

 元ミュージシャンという経歴で、現代芸術にも造詣が深い前沢氏は、世界的なアーティスト6―8人を月周回旅行に同行させ、宇宙や月をテーマにした芸術活動を支援するという壮大な計画も披露。そのために全席を押さえている。費用は非公表だが、1000億円近いとうわさされる。

 スペースXを率いるのは米電気自動車(EV)大手テスラ創業者で最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスク氏。マスク氏は前沢氏の挑戦を「勇敢だ」と賞賛する。

 月周回旅行には、将来の火星探査を目指してスペースXが開発中で現役では世界最大のロケットになる「ビッグ・ファルコン・ロケット(BFR)」を使う。BFRは全長350メートル、50トンの重量物を載せられる。地球と宇宙とを結ぶだけでなく、地球上の都市を1時間以内で移動できる旅客システムとなる計画も打ち出している。

高度100km、飛行時間10分 2200万円から


 現状では月への旅行はもちろん、国際宇宙ステーション(ISS)のような地上400キロメートルへの旅行にも膨大な費用がかかる。だが地球の高度100キロメートル程度の低軌道なら、コスト面での敷居はぐっと下がる。高度100キロメートルを超える弾道飛行で地球を見渡し、約4分間の無重量を体験する「サブオービタル(軌道)旅行」を計画する企業がある。米ブルーオリジンだ。

 米アマゾン・ドット・コム創業者のジェフ・ベゾスCEOが設立したブルーオリジンが開発中の宇宙船「ニュー・シェパード」は打ち上げ後、客室であるカプセルを上空で切り離す。乗客は高度100キロメートル以上で軌道旅行を楽しんだ後、カプセルがパラシュートを展開、地上に戻る。ロケットブースターは再着火して地上に帰還し、再利用する。

 船内は6人乗りで、所用飛行時間は約10分間。19年にも20万―30万ドル(約2200万―3300万円)とされる搭乗券を販売するという。

 通常のロケットの打ち上げとは異なるやり方で高度100キロメートルの宇宙空間を目指す企業もある。英ヴァージン・グループを率いるリチャード・ブランソン氏が設立した米ヴァージン・ギャラクティックだ。

 母機となる大型飛行機で高度15キロメートルにパイロットと乗客合わせて8人乗りの機体を運び、飛行機から分離。機体はロケットエンジンを噴射し、高度100キロメートルに達する。宇宙に到達した後は、つばさを広げてグライダーのように滑空しながら降下し、地球に帰る。

 4月には開発中の宇宙船「スペースシップ2」のロケットエンジンを使った試験飛行に成功した。同社は試験を重ね、18年中にも宇宙飛行を行い、安全性などを確認する。乗客を乗せた商業飛行は19年以降になる。運賃は25万ドル(約2750万円)。すでに俳優やスポーツ選手などが購入しているそうだが、ブランソン氏自ら乗船することも考えている。

 民間の宇宙旅行は米企業が開拓しているが、日本の宇宙ベンチャーも奮闘する。その代表格がPDエアロスペース(名古屋市緑区)だ。有人宇宙旅行用の宇宙船の開発を進めており、19年にはそれに先駆けて無人飛行機で高度100キロメートルへの到達を目指す。

 大手企業もその能力を評価しており、5月にはANAホールディングスやエイチ・アイ・エスなど5社から総額5億2000万円の資金を調達。新たに3機種の無人飛行機を開発する。全長8メートルで、ジェットとロケットの燃焼モードを切り替えるエンジンを2基搭載する。

 また、スペースウォーカー(東京都港区)は8月、日本初の有人宇宙飛行を目指すプロジェクトを始めると発表した。IHIや川崎重工業、九州工業大学、宇宙航空研究開発機構(JAXA)などと連携し、宇宙旅行用ロケット「スペースプレーン」を開発、27年の有人飛行を目指す。

 大山よしたかCEOは、「宇宙はすごく遠く、限られた人だけのものと思われているが、私たちの研究が進めば皆さんを宇宙に連れて行ける。私たちは本気だ。その本気を知ってもらいたい」と夢を語る。

 九州工大が開発した機体を基に、飛行機のように翼を持つロケットを製作する。離陸し4分後には高度120キロメートルに到達。乗客は数分間の無重量を体感し、宇宙から地球を眺める。乗客6人、乗員2人乗りの機体を想定する。開発費は1000億円程度を見込んでいる。

 有人飛行に先立ち、21年をめどに科学実験や小型衛星投入を目的とした無人ロケットを開発。ロケットは再利用し、打ち上げコストを従来の1割以下にするという。

「スペースプレーン」のイメージ(スペースウォーカーHPより)

(文=冨井哲雄、曽谷絵里子)
日刊工業新聞2018年9月24日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
多くの企業が参入を始めた宇宙旅行ビジネス。仮に夢が実現したとしても、高額すぎて一般の人には手が届かないかもしれない。だが、こうした挑戦が一歩一歩積み重なれば、いつか誰もが宇宙に行ける時代が来るかもしれない。 (日刊工業新聞社・冨井哲雄、曽谷絵里子)

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