沖縄に港を確保、法制度に道筋…2025年宇宙の旅へPDエアロスペースが開発加速
日米に「港」/法整備も道筋
PDエアロスペース(名古屋市緑区、緒川修治社長)が、2025年に目指す宇宙旅行ビジネスに向けて新たなステージを迎えている。「宇宙港」を沖縄県宮古島市に確保し、米コロラド州アダムス郡とも基本合意。未整備だった日本の法制度も方向性が示された。今後、社員を42人から100人に増やし、24年の有人試験飛行に向け宇宙航空機(スペースプレーン、SP)の開発を加速する。(名古屋編集委員・村国哲也)
緒川社長は航空機や自動車のエンジン開発に従事。その後ジェットとロケットの切り替え式エンジンを東北大学大学院で着想し、07年にPDエアロスペースを創業した。単一エンジンで飛行機のように水平に離着陸し高度100キロメートルの宇宙に到達、機体は繰り返し使える。エンジンは12年に基本特許を取得、17年に実証に成功した。
90分の弾道飛行
目指す宇宙旅行は約90分間。地球の周回軌道には乗らず高度100キロメートル程度まで上昇し帰還する弾道のような「サブオービタル飛行」だ。帰路の大気圏突入時はマッハ4で、同20のスペースシャトルなどより機体や乗員への負荷は小さい。
計画では操縦士2人を含む8人乗りの機体で高度110キロメートルに達し、5分間の無重力体験ができる。訓練を含め搭乗費は欧米他社より3割安い1500万―2000万円に設定する考え。25年に100人の利用を目指す。
機体開発では、無人機「PDAS―X06」の地上10キロメートルでの飛行試験を近く実施予定。自社製切り替え式エンジンでの飛行実験にも挑み、22年の無人機「X07」の高度110キロメートル到達、24年の有人機「X08」の初飛行を目指す。23年には米アダムス郡に現地法人も設立する計画だ。
技術者増員急ぐ
社員は出資元や自治体からの出向者もいるが、中心は“宇宙への夢”にひかれた人たちだ。英国、イタリア、カナダなどの外国籍を含め出自や経験は多彩。前例のない基礎技術開発を「経験や知識より情熱」(緒川社長)で進めてきた。
今後は機体の安全性や耐久性、低コスト化などの総合力が問われる。緒川社長は「さらに幅広い技術者が必要」とし、地元航空機産業の経験者を含め、技術者採用を急拡大する。また現在はANAホールディングスやHISなどの出資金で運営し、追加の資金調達は不可欠。財務、法務、広報などの専門家、拠点空港の観光地化の道を探る人材も求める。
成功のもう一つの条件が法整備だ。航空機とロケット・衛星の両エリアを往来する有人SPは日本に前例がなく、安全を担保する関連の法律もない。緒川社長も参加する官民協議会が無人実験機限定だが基本方針を示し、将来の法整備の道筋が見えた。「23年にも予約販売を始めたい」と緒川社長は意気込む。