出社率の低下に柔軟に対応 「社食のクラウド化」サービスとは
コロナ禍以降、テレワークの普及により社員食堂などの運用を見直す企業が増えている。健康経営の一環や、人材定着のための従業員へのベネフィットとしても食事補助の注目が高まっている。食事補助の新しい姿を追った。(取材・昆梓紗)
柔軟に変化できる「クラウド化」
「テレワークの普及により社食の『クラウド化』を検討する企業が増加している」―置き配型の総菜などを提供する「オフィスおかん」を運営するOKAN(東京都豊島区)の沢木恵太CEOはこう話す。従来の場所や提供内容が固定化された社食ではなく、社員の働き方の変化に合わせてサービス内容を柔軟に変更できる食事補助の形が求められている。
同サービスは、1つ100円の総菜が置かれた冷蔵庫をオフィスに設置し、社員が好きな時に好きな数を購入できる。サービス開始当初は中小規模やスタートアップ企業の導入が多かったが、最近では大企業や製造業での導入も増えてきた。
さらに、在宅勤務者へも食事補助を広げるべく、総菜を従業員の自宅に届けるサービス「オフィスおかん仕送り便」を2020年9月より開始。「『在宅勤務で増加した自宅での食事準備の補助になる』と好評で、要望が多く順次サービスを提供している状況」(沢木CEO)だという。
同じようにコロナ禍でオファーが増えているのが、食品や菓子などを扱う自動販売機「自販機コンビニ」。ファミリーマートは約2000カ所に2400台を設置している。「20年度も問い合わせはあったが、21年度になってさらに増加した。コロナ禍の長期化で社食などを見直す動きが本格化したようだ」と同社ライン・法人室ニューマーケット開発グループの太田裕資マネジャーは話す。出社率の低下とともに社食など従来の食事補助の維持が難しくなっている一方で、出社している社員へのサービスは継続したいと考える企業が、無人で販売できる自販機コンビニに注目する例が多い。無人販売は人との接触リスクも低減できることや、設置場所を分散させることも容易なため蜜を避けられるメリットもある。
実感できる補助
コロナ禍以前から続く人材不足を解消するための施策としても、食事補助は注目されている。特にエッセンシャルワーカーを抱える現場では、より一層人材定着が急務で、目に見える補助として実利を感じてもらいやすい食事補助の導入が広がっている。
オフィスおかんでは小規模事業所でも始めやすいメリットを生かし、特に医療・介護の現場での導入が進んでいる。同様に人材確保が求められる地方企業や拠点でも問い合わせが増えている。これに対応するため、OKANでは21年2月にセールスパートナーモデルを新設。従来産業給食を提供していた企業が既存ルートを活かしオフィスおかんを販売する、といった例が見られるという。
一方、コンビニ自販機は販売している商品の賞味期限が短く、毎日補充作業が必要だ。「オファーは増えているが、出社率などを勘案し一定の利益が見込める場合のみ設置しており、設置条件はコロナ前より厳しくなっている」(太田マネジャー)。この条件に合致し、特にオファーが増えているのが物流センターだ。ECの利用が増加したことで大型の物流センターが次々に建設されている。物流センターが設置される場所は周囲に飲食店がないことも多く、また人材不足から従業員への福利厚生に力を入れている。コロナ禍でも出勤率が高く、24時間稼働していることからも、自販機コンビニサービスとの親和性が高い。
健康経営の一手に
食事補助は、人材定着のための施策だけでなく、従業員の健康支援にもつながる。オフィスおかんの総菜は厳しく栄養管理され、健康に配慮されたメニューが揃う。健康でおいしい、といったポジティブな商品を通して、人材を大切にしているというメッセージを伝えられる。
コロナ禍における勤務形態変化への対応だけでなく、人材定着や健康経営を実践する一手としても、食事補助の見直しや新規導入は引き続き注目されそうだ。