「MUJI Labo」が挑戦する、“誰にでも似合う服”とは
在宅勤務やテレワークが多くなり、日々の服装が大きく変化した。毎日来ていたスーツやオフィスカジュアルから、家で快適に仕事ができるよう適度にリラックスした服が求められている。また、家にいる時間が増えたことで、断捨離やクローゼットの見直しをする人も多い。
良品計画では、無印良品の中の実験的なブランド「MUJI Labo」にて、性別や年齢、体型に関係なく着用できる服を展開している。服に求められるものが大きく変わりつつある現代に向けて、挑戦しつづけるブランド戦略を聞いた。(取材・昆梓紗)
男女の垣根がなくなりつつある
MUJI Laboの服は全体的にゆったりとした作りになっている。トップスは3サイズ、ボトムは5サイズ、デニムは11サイズ。男女の区分けはない。「どんな身長・体型の人が着用しても馴染むように、ゆとりは必要。それでいて不格好にならないデザインを追求している」と同社衣服・雑貨部山内良介マネージャーは話す。
MUJI Laboがスタートしたのは2006年。無印良品で販売する次のベーシック服を作るための実験というテーマを軸にしつつ、外部のデザイナーと協業しながら衣類を展開してきた。ただし、基本的に紳士・婦人の2ラインで服を作っていた。
2019年、外部デザイナー1名が男女両方のディレクションをすることになり、新たに「性別、年齢、体形関係なく誰もが着られる服」への挑戦がスタートした。「売り場を見ていても、男性のコーナーで女性が服を選んでいるなど、性別の垣根がなくなってきていることを感じていた。選ぶ時に悩ませない服を作ろうと考えた」(山内マネージャー)。
購入者の内訳を見ると、店舗販売では男性30%、女性70%。店舗では代理購入もあり女性が多く出やすいというが、着用者が直接購する場合の多いECを見ると、男性44%、女性56%という結果になった。
MUJI Laboの服は一見すると男性向けなのではと思われるデザインも多く、例えばシャツの合わせは右前で、いわゆる男性用だ。現在はスカートのラインアップもない。「MUJI Laboは男性服からスタートしたブランドで、肌感覚では男性の購入率が高いと思っていた。しかし、男女比率がほぼ半々なことを見ると『性別のない服』の狙いは成功していると考えられる」(山内マネージャー)。
誰にでも役立つか?
8月はシャツ、9月はスウェットなど毎月テーマを決め、商品を展開。20年秋冬シーズンはこれまでに17アイテムを発売した。
ミニマルとバリエーションの両立は難しい部分もあるという。しかし、「無印良品全体のデザインがそぎ落とすことをテーマにしている。前回出したものと変えたいという目的だけで商品を作ることがないように、必ず『役に立つかどうか』という原点に立ち返るようにしている」(山内マネージャー)。
例えば「太番手洗いざらしオックススタンドカラーシャツ」では、袖口のカフスをなくす一方で、インナーにも羽織にも使えるように適度な厚みの生地とゆったりした身頃、スナップボタン、大きめのポケットを付けている。1つの服をさまざまな体型・年齢の人と共有したり、多機能で使えるようにしたりすることで、買う手間・選ぶ手間を省き、ミニマムなクローゼットの実現を目指している。
変わりゆく「服」の存在
「コロナ禍を経て、『これから役立つ服とは何か』をもう一度考え直すことになった」と山内マネージャーは話す。外出機会が減り、在宅勤務など家で過ごす時間に合ったデザインや素材が求められている。
また購入場所も実店舗からECへと大きく変わりつつある。ECであれば「男性用、女性用」と分けられた売り場をそれほど意識することなく、自分に合った服を選びやすい。一方で、従来とは異なるサイズ展開では着用時のイメージが湧きにくい。無印良品のECサイトでは現状、男性、女性両方が同じ服を着用した場合の画像を用意し対応しているが、「買いやすいサイトとは言い切れない」(山内マネージャー)。今後改良を検討している。
「ファッション関係では特に男女を気にせず商品を見る人も増えている。男女の垣根をなくすだけでも、単純に選択肢は倍に広がる」と九州大学芸術工学部の池田美奈子准教授は話す。
ファッション業界では他業界に先駆けてジェンダーフリー、ジェンダーレスな動きが起こっていた。ファッションは個人が自由に選べ、自己表現の一環でもあるので、ジェンダーフリーやジェンダーレスを取り入れる突破口にもなりやすい。MUJI Laboではそこに実用性を兼ね備えることで、共感を得る切り口が増え、より多くの人が受け入れやすい商品を実現したといえるだろう。