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「すべて正しい」は不可能。企業クチコミサイト、運営の本音と使い方

連載・withコロナ時代ー就活に変 #06
「すべて正しい」は不可能。企業クチコミサイト、運営の本音と使い方

企業クチコミサイトは求職者にとって貴重な情報源になっている(写真はイメージ)

「何を決めるにも社内調整に非常に時間がかかる」「有給休暇は割と自由に取れると思います」「この企業にいてもエンジニアとして外に公開できる成果を積み上げていくことは難しいだろう」―。

企業で実際に働く人のこうしたリアルな声が閲覧できる企業クチコミサイトは、就職先を検討する求職者にとって貴重なツールだ。とはいえ、クチコミサイトは企業の単なる誹謗中傷が投稿されたり、なりすましによる誤情報が混じったりする懸念がつきまとう。

エン・ジャパンは、年間約5000万人が利用する企業クチコミサイト「カイシャの評判」を6月に大幅リニューアルし、「en Lighthouse(エン ライトハウス)」として再スタートした。そこで事業責任者の寺田輝之執行役員にリニューアルの背景とともに、投稿の信憑性や適切性を判断する方法、求職者や企業にとってのクチコミサイトのよりよい使い方について聞いた。(聞き手・葭本隆太)

企業選びの軸として活用してほしい

―リニューアルの背景を教えて下さい。
 企業選びの軸の一つとしてクチコミを活用して欲しいという思いからです。我々は(人材紹介業として求職者の)「入社後の活躍」(ができる企業とのマッチング)を支援したいと考えています。その中で(企業が求職者に仕事や組織の実態についてありのままの情報を提供する手法であり、定着率を高める効果が確認されている)「リアリスティック・ジョブ・プレビュー(RJP)」という理論に共感しています。だからこそ、クチコミサイトを運営してきましたし、(10年近く運営していく中で)実際にクチコミが集まり、評価されるようになりました。

ただ、単純にクチコミを集めて表示しても(その情報が)仕事選びの軸にはなりづらいという課題を感じていました。そこで、就業支援を長年展開し、企業の栄枯盛衰を見てきた我々が考える会社選びの軸を8つの項目に再編集し、わかりやすく示すようにしました。

エン ライトハウスで示す企業の評価チャートのイメージ

―年収や残業時間について「納得度」をより目立つ場所に表示するように変更しました。
 年収や残業が多いか少ないかは働く人の価値観によって異なります。単純に多いか少ないかだけではなく、働きがいを感じているか否かを可視化したいと思いました。

―「女性のクチコミ」という女性によるクチコミに絞って表示する新機能も搭載しました。
 ダイバーシティーの推進が目的です。本当は(「女性」ではなく)「ダイバーシティー」というカテゴリーを設けて外国人やLGBT(に関わる情報を集める)というところまで踏み込みたいと思っていました。ただ、日本の現状を見ると、(多くの企業は)女性でさえ「働きやすさ」にとどまっていて肝心の「活躍」の議論にまで踏み込めていません。外国人やLGBTの活躍を考えるまでは遠いように感じます。そのため、ダイバーシティーを推進する上で、まずは女性の活躍が重要だと思い、女性に絞ったコーナーを作りました。

サイト運営者は全知全能ではない

―企業クチコミサイトを開設して10年近く経過します。クチコミ情報に対する求職者の需要はどのように変化してきましたか。
 利用者数は右肩上がりで推移しており、2015年を過ぎた頃からぐっと増えた印象があります。具体的な要因は分かりませんが、(買いたい商品や行きたいレストランなど)気になるものがあると、クチコミを確認する行動が定着したタイミングと一致するのだろうと思います。その中で(企業クチコミサイトは「転職会議」や「オープンワーク」といった競合がありますが、)我々のサイトは情報量が評価されています。クチコミの投稿数や掲載企業数の多さはナンバーワンです。

寺田輝之執行役員

―そうしたクチコミはどのように集めているのですか。
 エン・ジャパングループが展開する転職支援など各種サービスを利用する社会人会員の方々に投稿をお願いしています。求職者の会員データベースには1000万人ほどが登録されており、サービスに一定のロイヤリティを持ってもらえているので協力が得られています。

―クチコミは量とともにその質が重要だと思いますが、それをどう維持していますか。
 (開設以来)10年近く戦ってきているテーマです。まず、すべての投稿はチェックした上で掲載の可否を判断します。誹謗中傷は掲載しません。個人を特定していたり、明らかに悪意があったりする投稿もNGです。なぜならそれは求職者にとってあまり役に立たない情報だからです。それ以外の投稿は基本的に掲載しています。

―「戦ってきている」とは。
 我々も全知全能ではないので、自分たちの倫理観をどこに置くべきか、とても悩みます。(投稿掲載の可否について)厳しくなりすぎてもダメですし、緩くなりすぎてもダメ。判断すべき軸のメンテナンスを常に行っています。

―「誹謗中傷」は掲載しないということですが、企業に対する「批判」であれば求職者にとって価値のある情報になりそうです。ただ、「批判」と「誹謗中傷」の線引きは難しそうです。
 微妙なラインの投稿は(サイト運営メンバーが参加する)「クチコミ企画会議」で(個別に)判断します。入社後の活躍につながるような情報提供だと思えば掲載しますし、仮にリアルな情報だとしてもそこで働くときに意味を持たないと思えば掲載しません。会議ではそうした会話をして(掲載可否を判断して)います。

―「誹謗中傷か批判か」のほかに、掲載の可否を悩むクチコミはどのようなものがありますか。
 不祥事によって〝炎上〟した企業に関するクチコミは悩みました。その際は(不祥事に関わるクチコミでも)社風の一端をあらわしていて、仕事に関係するという見方ができる投稿は掲載しました。

―クチコミサイトは「サクラ」の存在も問題視されます。
 「なりすまし」は正直分からないのが実態です。ただ、クチコミは(エン・ジャパンが提供する)別のサービスの会員による投稿が中心で、そうした会員はサクラをする動機があまりないと思います。また、(企業クチコミサイトを入り口に会員登録する)悪意を持った人は誹謗中傷の投稿をする傾向があります。それでも(サクラも)しっかりチェックしたいという思いがあり、今回のリニューアルでは精緻にプロフィールを登録してもらう仕組みを設けました。

利用者のリテラシーに委ねている

―仮に誹謗中傷やサクラを適切に排除したとしても、嘘や誤った情報が混じる可能性は否定できないのがクチコミサイトの宿命ですよね。
 100%正確な情報を掲載することは不可能です。利用者のリテラシーとしても100%正しいとは捉えないと想定しており、我々としてはそこに委ねている部分もあります。

寺田輝之執行役員

―ご説明を前提とした場合に利用者は企業クチコミサイトをどのように使うべきでしょうか。
 企業とコミュニケーションするための素材にして欲しいと強く思っています。クチコミを参考に企業の気になる点を把握して実際の面接でその事実を確認する使い方がベストだと思っています。面接の場で質問してその回答を受け止め、それが仮に曖昧であれば更に質問して確認する。そうした作業を通した納得感の醸成が(よい就職をする上で)重要だと思います。

―企業側はクチコミサイトをどう生かすべきでしょうか。
 求職者と積極的にコミュニケーションする場として使ってほしいです。そのために今回のリニューアルではクチコミに対して企業が返信できる機能を設けました。一部の企業を対象に無償で情報発信できる機能も試験的に導入しています。宿泊施設予約サイトでは宿泊客が「どこどこが汚れていた」と投稿し、施設側が「掃除しておきます」と返答するといったやり取りが見受けられますが、企業クチコミサイトでも互いに発信し合うことで、より適切な情報が広く伝わる場になると思います。そうした場を作ることこそが(求職者がよい)就業先を決める支援になると考えています。

―企業からクチコミを削除して欲しいという要望が届くケースはあるのでしょうか。
 一定数あります。「事実と異なる内容だ」という主張が大半です。要望をもらった場合は、クチコミへの返信機能で事実を追記してもらう、もしくはクチコミ投稿者に企業からの要望を根拠とともに伝えて事実確認するという対応をとっています。

―エン ライトハウスはどのように収益を上げていますか。
 単体では収益化していません。そこは(企業クチコミサイトとしての)ポイントと言えます。(求人企業から広告費などを取らず)ビジネスにしていないからこそ情報をフラットに扱える部分があると思っています。

―収益なしでクチコミサイトを運営する意義をどう考えていますか。
 企業ブランディングと捉えています。(エン・ジャパンの本業である)就職支援サービスは一定の個人情報を預かるため、どのようなスタンスで事業を展開しているかを示して企業として信頼を醸成することは非常に重要です。我々は入社後の活躍を支援したいと思っており、それを推進する情報提供としてエン ライトハウスを運営しています。それを知ってもらい、エン・ジャパンを身近に感じてもらえたらうれしいです。

連載・withコロナ時代―就活に変(全5回)

ウェブ面接やウェブ合同説明会、スカウト型採用など新型コロナの感染拡大を機に就活に関わる多様なツールが注目を集めています。こうしたツールの利用拡大によって変わりゆく就職活動のあり方を追いました。

#01 トヨタも導入。ウェブ面接は新卒採用の選考基準を変える(6月1日公開)
 #02 ウェブ就活イベント活況。「リアル」はもういらないのか(6月3日公開)
 #03 「スカウト型」新卒採用。コロナで脚光のワケと飛躍への壁(6月5日公開)
 #04 信用なくした「リクナビ」が放つ覚悟の一手。学生起点に振り切る(6月8日公開)
 #05 理工系就活の切り札はAI活用。「学び」と「仕事場」をマッチング(6月12日公開)
 #06 「すべて正しい」は不可能。企業クチコミサイト運営が語る本音と使い方(6月30日公開)

ニュースイッチオリジナル
葭本隆太
葭本隆太 Yoshimoto Ryuta デジタルメディア局DX編集部 ニュースイッチ編集長
就活をテーマにした連載の延長戦として企業クチコミサイトを取材しました。企業のクチコミに限らずですが、クチコミサイトの運営者は嘘や誤情報が混じる懸念についてどのように考え、どのように対処しているのかが以前より気になっていました。その中で、寺田さんの「100%正確な情報を掲載することは不可能」や「利用者のリテラシーに委ねている部分もある」というコメントは正直で誠実だと感じました。

特集・連載情報

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