ウェブ就活イベント活況。「リアル」はもういらないのか
新型コロナウイルスの感染拡大を背景に、リアルイベントの代替策として開催が相次ぐウェブ企業説明会が活況を呈している。場所の制約を受けず視聴できる利点などがあり、コロナの感染拡大収束後も学生が情報を取得したり、企業が情報を発信したりする選択肢になることが確実視される。
一方、ウェブ化が進むことでリアルのイベントにはあえてリアルで開く理由付けが必要になる。特に大規模の合同企業説明会を例年開催してきた就活ナビサイト大手には、その問いが突きつけられる。リアルで開催する意味は何か、リアルでなければならない理由は何か。コロナ禍を機にその模索が始まる。(取材・葭本隆太)
新たな選択肢が生まれた
「情報が得られず困っていた学生に良いコンテンツが届けられた」。就活クチコミサイト「ONE CAREER」を運営するワンキャリア(東京都渋谷区)コンテンツマーケティング事業部の多田薫平マネージャーは、3月の平日に動画投稿サイト「YouTube」で連日開催したライブ形式のウェブ企業説明会「ワンキャリアライブ」の反響に確かな手応えを感じている。
新型コロナウイルスの感染が拡大し、就活イベントの中止が相次ぐ中で、三菱商事やソニーなど21社の参加により学生救済策として開催した緊急企画だった。毎日1時間の枠で1社ずつ配信したライブ説明会は視聴回数が多い配信回で3万5000回に上り、生放送の平均視聴時間は約30分に達した。「学生の質問や反応を企業に届けられるようライブ形式にこだわった」(多田マネージャー)ことも奏功し、配信中に100件以上の質問が投稿される説明会も多かった。
ワンキャリア経営企画室の寺口浩大PRディレクターは「(コロナ禍によりウェブ企業説明会の実施が広がったことで)企業や学生に(情報発信や取得の)新たな選択肢が生まれた。今後はオフラインのイベントにも開く意味や理由が求められる」と指摘する。
情報取得はウェブで十分
マイナビの調査によると、就活イベントの中止が相次いだ3月にウェブ企業説明会に参加した学生は7割を超えた。ウェブ説明会はライブとオンデマンドの2つの形式で行われており、いずれも学生は場所を選ばず視聴できる。ライブは視聴中に質問が投稿でき、オンデマンドは自由な時間に視聴できる利点もある。
実際にウェブの企業説明会を体験した学生たちはその利点を評価する。「質問がしやすく、気軽に多くの説明会が視聴できた」(私大に通う男子学生)や「オンデマンドを視聴したが、時間にとらわれず視聴できた。これまで会社説明会に行きたいけど授業でいけないことが多々あった」(私立女子大に通う女子学生)、「身支度や移動の必要がなくて楽」(私大に通う女子学生)などだ。
その上で「企業の情報(を取得する分に)はウェブ説明会で十分」(国立大に通う女子学生)、「どうしてもリアルでなければいけない理由が思い当たらない」(私大に通う男子学生)といった意見も続く。多くの学生がウェブによる企業説明会を経験したことで、比較対象となるリアルのイベントに厳しい視線が注がれるようになったというわけだ。
手痛いイベント事業の縮小
こうしたウェブ化の流れは、大規模な合同企業説明会を例年開催してきた就活ナビサイト大手のビジネスを直撃する。「リクナビ」を運営するリクルートキャリア新卒メディア統括部の大家純一統括部長は「リアルのイベント事業の売り上げが一定程度ある中で(ウェブ化の流れによるリアルの縮小は)手痛い。ただ、学生や企業の需要を的確に捉えて変化に対応しなくてはいけない」と胸の内を明かす。
同社はウェブ化の流れがリアルのイベント事業を恒常的に縮小させる可能性を覚悟し、自ら変化の波に乗り始めた。2022年卒の学生などを対象として1日に開設した就活ナビサイト「リクナビ2022」において、企業ごとにインターンシップに関する説明会を動画で視聴できる機能を設けた。
大家統括部長は「マーケティングをしたわけでもなく、とりあえず作ったという状態。(実際に実施してみて)いろいろな学びがあるだろう。(それを踏まえて)リアルとウェブのイベントがどうあるべきかを考えたい。〝with・afterコロナ〟時代の大事な議題になる」と力を込める。
技術革新でリアルの価値なくなる?
マイナビも3月に開催予定だったリアルの合同企業説明会の中止を踏まえ、急ぎウェブシフトを敷いた。5月には代替策としてのウェブ合同企業説明会も開いた。同社事業推進統括事業部に所属する林俊夫事業部長は「大事なのは企業と学生に求められるか否か。(既存ビジネスに)あまり固執すぎるのはよくない。学生と企業に求められる手段を模索しないといけない」と展望する。
もちろん、両社ともリアルの合同企業説明会が持つ価値を信じている。その一つが学生と企業の偶然の出会いを演出する機能だ。「リアルのイベントはブースの前を偶然通りかかって企業を知るケースがある。ウェブは大手を中心に探してしまい、中堅・中小と学生のマッチングが弱くなる課題がある」(リクルートキャリアの大家統括部長)。ただ「(進化が止まらない)テクノロジーなどによって(いずれ)その課題は乗り越えられるかもしれない」(同)とも認識しており、リアルの合同企業説明会の価値が今後失われてしまうかもしれない事態に対し、危機感を隠さない。
「感じる」はリアルの方が圧倒的
一方、学生と企業を直接結びつける小規模イベントを開催する企業は、コロナ禍においてイベントをウェブ化したことでリアルの価値を再認識している。プレシャスパートナーズ(東京都新宿区)は、人材獲得に苦戦する中小・ベンチャー企業の経営者5人程度と学生50人程度が交流する「リクルートオーディション」を19年9月から実施している。座談会を通して経営者と学生がそれぞれ気になる相手を選び、マッチングする仕組みで、コロナ禍の4-5月はウェブで開催した。
髙﨑誠司社長は「ウェブは場所の制約を受けず気軽に参加できるため、広くマッチングできる。一方、経営者の熱量は画面越しより直接会った方が伝わる。『知る』ではなく『感じる』という意味ではリアルの方が圧倒的に強い」と説明する。
グローアップ(東京都新宿区)も限られた数の企業と学生を集め、マッチングを促す「キミスカLIVE!」のウェブ版を5月に初めて開催した。同社新卒事業部の末松怜央広報・学生チームリーダーは「ウェブは地方企業も全国の学生と出会える(利点がある)。ただ、リアルの方が密に交流できる」と説明する。
両社は今後、ウェブとリアルを使い分けながら両方を展開していくという。
ウェブ就活イベントは学生たちの支持を集め、リアルのイベントにリアルで行う意味を問い始めた。とはいえ、「ウェブイベントとリアルイベントで企業の理解度や志望度がどう変わるかといった客観的な評価はまだできていない」(人材業界の関係者)。また、前出の学生たちからもリアルを待望する声は聞かれる。「直接目で見て肌で感じる企業の雰囲気は足を運ぶからこそ得られる」(私大の男子学生)や「社員個人の『体験』は直接その人に会って聞きたい」(国立大の女子学生)、「ウェブではあまり就活をしている感じがしない。リアルのイベントを通して就活している安心感が欲しい」(私大の女子学生)といった具合だ。
なぜウェブか、なぜリアルなのか。コロナ禍を経て、目的に応じて最も価値が提供できる就活イベントのあり方の模索が本格化する。
連載・withコロナ時代―就活に変(全5回)
ウェブ面接やウェブ合同説明会、スカウト型採用など新型コロナの感染拡大を機に就活に関わる多様なツールが注目を集めています。こうしたツールの利用拡大によって変わりゆく就職活動のあり方を追いました。
#01 トヨタも導入。ウェブ面接は新卒採用の選考基準を変える(6月1日公開)
#02 ウェブ就活イベント活況。「リアル」はもういらないのか(6月3日公開)
#03 「スカウト型」新卒採用。コロナで脚光のワケと飛躍への壁(6月5日公開)
#04 信用なくした「リクナビ」が放つ覚悟の一手。学生起点に振り切る(6月8日公開)
#05 理工系就活の切り札にAI。あなたの「学び」生かせる職場紹介します(6月12日公開)