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増える「駅の委託業務」、安全性は守られるか

JR東日本がトレーニングセンター開設、人材育成強化へ
増える「駅の委託業務」、安全性は守られるか

非常時の乗客誘導訓練

 JR東日本東京支社は7月、駅業務に特化した教育訓練施設「蒲田トレーニングセンター」(東京都大田区)を開設した。実践的な訓練に取り組める環境を整え、異常時対応能力に優れた駅員を育成するのが狙いだ。将来の労働人口減少を見据え、グループ会社への駅業務委託を拡大する中、安全レベルの維持向上は絶対条件。将来の駅を担う専門人材育成においても、安全第一の教育は最も重視すべきテーマだ。

 JR東は大田運輸区に10億円を投じて総延長460メートルの線路3線とホーム3面、車両2両などの訓練環境を整備。1日の開所式では白石敏男常務執行役員東京支社長は「安全を担う人づくりは大きなテーマだ。多様な教育を効率的、効果的に行い、安全のレベル向上を目指す」とセンターの意義を強調した。

 これまで総合訓練センター(さいたま市)で実施していた訓練を一部移転した。東常夫トレーニングセンター長は駅業務に特化した施設を造ることで「多くの訓練機会を創出したかった」と説明する。ホーム上の基本動作訓練や駅間停車時の乗客誘導訓練、線路内作業時の見張り員訓練などを実施でき、東京支社における訓練のキャパシティーは従来比5割増える。

 JR東は運転士の訓練でも、各地の乗務員区所に運転シミュレーターの配備を進めている。常時訓練できる体制を整え、個人の技能や異常時対応能力の向上を図るのが狙い。駅業務や運転士の訓練を充実させる背景には、現場の成熟化で業務を通じた“失敗”が経験できなくなっている、との危機感がある。

 JR東は近年、改札や出札、ホーム上の乗客対応など駅業務の外部委託を広げている。3月には秋葉原駅のフルオペレーションをJR東日本ステーションサービス(JESS)に委託。秋葉原は首都圏主要ターミナルの一つ、1日の乗車人員が約25万人を数える「シンボリックな駅」(赤石良治常務)だ。

 2013年に発足したJESSへの委託駅は関東一円で急増しており、社員数も3000人を超えた。定年再雇用「エルダー社員」のほか、独自に採用活動を展開。「接客スキル、ホスピタリティマインドに優れた社員」(同)が入社しているという。

 駅業務の委託は、鉄道事業の効率化とともに「駅の専門性を高める」(同)のが狙いでもある。資格が必要な仕事は管理駅でJR東の社員が扱う。一方、ホーム上で危険発生を知らせる「列車非常停止警報装置」の復帰など委託業務の範囲も広がっている。

 実践的に学ぶことができる新センターはJESSの安全レベル向上にも大いに役立ちそうだ。「安全は経営のトッププライオリティー」(深沢祐二社長)と掲げているJR東。将来を見据えた鉄道事業のグループ“水平分業”を進める上でも、現地現物を重視した教育訓練環境の拡充は、喫緊の課題となる。
日刊工業新聞2019年7月9日

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