車載電池「大競争」時代へ。NECは撤退検討
押し寄せるEV化の“波” 自動車メーカーの調達戦略は変わるか
自動車産業に世界的な電動化の“大波”が押し寄せている。欧米や中国、インドで電気自動車(EV)の普及につながる施策が打ち出された結果、電動車の早期投入が“最重要課題”になった自動車メーカーが開発を本格化させた。コア部品である電池需要の急増も見込まれ、今後は商品開発だけでなく電池の調達戦略も重要性が増してくる。
トヨタ自動車は2050年に、ハイブリッド車(HV)などを含めて販売車種のほぼすべてを電動車両にする構想を掲げる。19年をめどに中国でEVを量産する検討も始めた。
日産自動車は年内に、27万台以上の販売実績を持つEV「リーフ」の新型を日本や欧米で投入する。将来はスポーツ多目的車(SUV)や軽自動車のEV化も進めるなど電動車両の商品拡充を進める。カルロス・ゴーン会長は「電動車両のリーダーの座をさらに強化する」と意気込む。
ホンダは30年までに販売台数の3分の2をEVやプラグインハイブリッド車(PHV)などの電動車両にする方針。年内に米国でPHVとEV、18年に中国で専用EVを投入する。
自動車の電動化が急速に進む中、メーカーには今後いかに電池を確保できるかも問われそうだ。このため、電池調達をめぐって新たな動きも出始めている。
スズキはインドで車載用電池製造に乗り出す。デンソー、東芝と共同でリチウムイオン二次電池(LIB)パックの製造会社を17年内に設立し、20年頃までの生産開始を目指す。
電池パックの安定調達体制を構築し、インドで強まる環境規制対応と環境車の普及促進につなげる。日産は、NECとのEV用電池製造会社の売却を検討している。電池の開発は今後も自社で担う一方で、製造は外部に切り替えることでコスト低減を進めるもようだ。
車載電池メーカーでも、電動車両の普及拡大を見据えて対応を急ぐ。HV用電池で世界トップのプライムアースEVエナジー(PEVE、静岡県湖西市)は、19年をめどに宮城県大和町にHV用LIBの新工場を稼働するほか、海外でも中国での環境対応車の生産拡大に向けて16年末にHV用電池の一貫生産体制を整えた。
PEVEはかつてトヨタがリース販売したEVに電池を供給した実績があるが、現在は全量がHV用。同じLIBでも、頻繁に充放電を繰り返すHV用と、蓄電を目的とするPHV、EV用では電池の使用環境が大きく異なる。
このため、PEVEではトヨタのEV戦略に対応する形でPHVやEV用についても対応を検討する。
パナソニックは6月から米テスラがネバダ州に建てた電池工場「ギガファクトリー」で車載用円筒形電池の生産を開始。テスラがまもなく納車を始める新型EV「モデル3」向けに供給を始めた。
モデル3は約400万円という普及価格帯のEVで、テスラはすでに40万台もの予約を得ているため、生産拡大を急いでいる。
テスラ向け電池をほぼ全量供給するパナソニックも、順次能力を増強。18年には年産能力を、EV50万台分に相当する3500万キロワット時まで引き上げる予定だ。
パナソニックは中国・大連市でも角形の車載用LIB工場を完成済みで、17年度内の稼働を目指して立ち上げを進めている。
米国と中国の二つの電池工場への投資額は計2000億円と巨額。だが、その見返りに産業・車載用二次電池の18年度売上高は、15年度比2・5倍の5000億円に急成長する見通しだ。
最大市場の中国では2018年にもEVなど電動車の一定割合の販売を義務付けられるほか、米国でも18年にカリフォルニア州で環境規制が強化される。
またフランス政府は40年までにガソリン車とディーゼル車の販売を禁止する方針を打ち出し、インド政府も国内で販売する車を30年までにすべてEVに限定する政策を表明している。
EV市場の拡大に伴い、電池材料の需要も増加が見込まれる。富士キメラ総研の調査によると、LIBの主要材料である正極材の販売重量は20年に15年比3・2倍、25年に同7・1倍に拡大する見通しだ。
一般的にEV1台につき、正極材は百数十キログラム使われる。HVの場合は数キログラム、PHVは数十キログラムとされ、「EVの正極材使用量はケタ違いに多い」と、住友金属鉱山の黒川晴正取締役専務執行役員材料事業本部長は話す。
こうした中、正極材のメーカーもEV市場の拡大を見据えて増産に動きだしている。住友鉱は正極材の一種「ニッケル酸リチウム」(NCA)の生産能力を、18年1月までに従来の月1850トンから同3550トンへ増強する。
同社のNCAはパナソニックとの共同開発品で、主に米テスラのEVに使われている。電池材料メーカーとして、テスラが掲げる意欲的なEV増産目標への対応を急ぐ構えだ。
気になるのは、EV向けの需要拡大に伴い、正極材の原料となるリチウムやニッケル、コバルト、マンガンなどの金属が不足する事態が起こり得るのか否か。
石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の関本真紀金属資源調査課長は「EVの普及拡大がどんなカーブを描くかにもよるが、短・中期的には需給がタイトになり、金属価格が上昇することも想定される」と説明。特にコバルトは銅やニッケルの副産物として生産されるため、「コバルトだけの理由で生産量を増やせない課題がある」(関本課長)。
一方、これらの金属の埋蔵量について、JOGMECの馬場洋三鉱種戦略チームリーダーは「長期的に量が足りなくなると心配する向きもあるが、あまり慌てるべきではない」と強調する。金属価格が上がれば、これまでコスト面で手を出せなかった深部の鉱脈や低品位の鉱石の活用も可能になる。「経済原則に従って新たな資源開発が進むはずで、埋蔵量が底を突くとはみていない」と馬場チームリーダーは指摘する。
(文=土井俊、斉藤陽一、大阪・錦織承平、名古屋・今村博之、浜松・田中弥生)
トヨタ自動車は2050年に、ハイブリッド車(HV)などを含めて販売車種のほぼすべてを電動車両にする構想を掲げる。19年をめどに中国でEVを量産する検討も始めた。
日産自動車は年内に、27万台以上の販売実績を持つEV「リーフ」の新型を日本や欧米で投入する。将来はスポーツ多目的車(SUV)や軽自動車のEV化も進めるなど電動車両の商品拡充を進める。カルロス・ゴーン会長は「電動車両のリーダーの座をさらに強化する」と意気込む。
ホンダは30年までに販売台数の3分の2をEVやプラグインハイブリッド車(PHV)などの電動車両にする方針。年内に米国でPHVとEV、18年に中国で専用EVを投入する。
自動車の電動化が急速に進む中、メーカーには今後いかに電池を確保できるかも問われそうだ。このため、電池調達をめぐって新たな動きも出始めている。
スズキはインドで車載用電池製造に乗り出す。デンソー、東芝と共同でリチウムイオン二次電池(LIB)パックの製造会社を17年内に設立し、20年頃までの生産開始を目指す。
電池パックの安定調達体制を構築し、インドで強まる環境規制対応と環境車の普及促進につなげる。日産は、NECとのEV用電池製造会社の売却を検討している。電池の開発は今後も自社で担う一方で、製造は外部に切り替えることでコスト低減を進めるもようだ。
トヨタ「HV・PHV・EV」どう使い分け?
車載電池メーカーでも、電動車両の普及拡大を見据えて対応を急ぐ。HV用電池で世界トップのプライムアースEVエナジー(PEVE、静岡県湖西市)は、19年をめどに宮城県大和町にHV用LIBの新工場を稼働するほか、海外でも中国での環境対応車の生産拡大に向けて16年末にHV用電池の一貫生産体制を整えた。
PEVEはかつてトヨタがリース販売したEVに電池を供給した実績があるが、現在は全量がHV用。同じLIBでも、頻繁に充放電を繰り返すHV用と、蓄電を目的とするPHV、EV用では電池の使用環境が大きく異なる。
このため、PEVEではトヨタのEV戦略に対応する形でPHVやEV用についても対応を検討する。
パナソニック、テスラと心中?
パナソニックは6月から米テスラがネバダ州に建てた電池工場「ギガファクトリー」で車載用円筒形電池の生産を開始。テスラがまもなく納車を始める新型EV「モデル3」向けに供給を始めた。
モデル3は約400万円という普及価格帯のEVで、テスラはすでに40万台もの予約を得ているため、生産拡大を急いでいる。
テスラ向け電池をほぼ全量供給するパナソニックも、順次能力を増強。18年には年産能力を、EV50万台分に相当する3500万キロワット時まで引き上げる予定だ。
パナソニックは中国・大連市でも角形の車載用LIB工場を完成済みで、17年度内の稼働を目指して立ち上げを進めている。
米国と中国の二つの電池工場への投資額は計2000億円と巨額。だが、その見返りに産業・車載用二次電池の18年度売上高は、15年度比2・5倍の5000億円に急成長する見通しだ。
世界でEV普及促進
最大市場の中国では2018年にもEVなど電動車の一定割合の販売を義務付けられるほか、米国でも18年にカリフォルニア州で環境規制が強化される。
またフランス政府は40年までにガソリン車とディーゼル車の販売を禁止する方針を打ち出し、インド政府も国内で販売する車を30年までにすべてEVに限定する政策を表明している。
正極材需要高まる、使用量「ケタ違い」
EV市場の拡大に伴い、電池材料の需要も増加が見込まれる。富士キメラ総研の調査によると、LIBの主要材料である正極材の販売重量は20年に15年比3・2倍、25年に同7・1倍に拡大する見通しだ。
一般的にEV1台につき、正極材は百数十キログラム使われる。HVの場合は数キログラム、PHVは数十キログラムとされ、「EVの正極材使用量はケタ違いに多い」と、住友金属鉱山の黒川晴正取締役専務執行役員材料事業本部長は話す。
こうした中、正極材のメーカーもEV市場の拡大を見据えて増産に動きだしている。住友鉱は正極材の一種「ニッケル酸リチウム」(NCA)の生産能力を、18年1月までに従来の月1850トンから同3550トンへ増強する。
同社のNCAはパナソニックとの共同開発品で、主に米テスラのEVに使われている。電池材料メーカーとして、テスラが掲げる意欲的なEV増産目標への対応を急ぐ構えだ。
気になるのは、EV向けの需要拡大に伴い、正極材の原料となるリチウムやニッケル、コバルト、マンガンなどの金属が不足する事態が起こり得るのか否か。
石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の関本真紀金属資源調査課長は「EVの普及拡大がどんなカーブを描くかにもよるが、短・中期的には需給がタイトになり、金属価格が上昇することも想定される」と説明。特にコバルトは銅やニッケルの副産物として生産されるため、「コバルトだけの理由で生産量を増やせない課題がある」(関本課長)。
一方、これらの金属の埋蔵量について、JOGMECの馬場洋三鉱種戦略チームリーダーは「長期的に量が足りなくなると心配する向きもあるが、あまり慌てるべきではない」と強調する。金属価格が上がれば、これまでコスト面で手を出せなかった深部の鉱脈や低品位の鉱石の活用も可能になる。「経済原則に従って新たな資源開発が進むはずで、埋蔵量が底を突くとはみていない」と馬場チームリーダーは指摘する。
(文=土井俊、斉藤陽一、大阪・錦織承平、名古屋・今村博之、浜松・田中弥生)
日刊工業新聞2017年7月24日