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大手243社研究開発アンケート、見えてきたオープンイノベーションの課題

大学運営を支える間接経費の負担は厳しい、博士課程の支援はもっと厳しい
 日刊工業新聞社が実施した研究開発(R&D)アンケート(有効回答243社)によると、2017年度の計画を回答した177社の研究開発費合計は、16年度実績比5・3%増と8年連続の増加となった。10位以内の企業のうち、8社が前年よりも研究開発費を増額しており研究開発への企業の高い投資意欲がうかがえる。

 産学連携やオープンイノベーションでは企業と大学が組織同士で連携する「組織連携」が増えつつある。研究戦略を共有して複数の共同研究を走らせ、成果に付加価値を付けることが目的だ。

 17年アンケートでは26%の企業が大学とのビジョン共有を望み、60%の企業が共同研究費を増す意向があった。だが研究費の30%の間接経費を認める企業は1割未満。大学に分野横断的な知見や戦略を期待する企業も少なかった。大学は戦略立案力を磨かないと、安く使われる可能性がある。

 アンケートではまず大学や研究機関に求めるリソースは何か聞いた。技術ノウハウやアドバイスは8割に達するのに対し、特許などのパテントは26・5%に留まった。

 共同研究を呼び込むためには、特許は必ずしも必要ないようだ。研究体制については特定の研究者とのつながりを求める企業が46・9%。開発者コミュニティーは35・0%で研究者チームは30・1%だった。

企業と大学、ビジョンの共有から始める


 また組織連携では企業と大学がビジョンの共有から始める例が増えている。両者で目標を決めて必要な研究者やテーマを入れ替えながらプロジェクトを回していく。

 この技術開発のビジョンを求める企業は23・0%で、技術動向にビジネスモデルや産業構造を加えた産業ビジョンは11・1%だった。

 今回ビジョンを選択した企業は59社で回答企業の26・1%だった。ビジョン共有はコミュニティーとのつながりを求める傾向がある。これらの企業は組織連携の筆頭候補として別途集計した。

 次ぎに大学や研究機関に求める機能を聞いた。研究の計画立案や実施管理、機密管理などの組織体制の整備を6割の企業が求めた。

 三菱ケミカルHDは「期間内に成果を出すための大学や研究機関の執行部による組織的コミット」、東京エレクトロンは「開発と決定までのスピードや対応力」を挙げた。

 対して研究成果の標準化は23・0%、知財戦略が19・9%、ベンチャーを興しIPOなどでの投資回収は9・3%と成果に付加価値を加える機能へのニーズは多くない。

 成功体験が少なくニーズが顕在化していないのか、大学や研究機関にこれらの機能を求めず自社で担おうと考えているのか判断が難しい。ただビジョン共有型企業は機密管理以外の項目が総じて高い。組織連携を志向する企業は付加価値戦略を求めている。

間接経費を認める企業、1割未満


 次ぎに企業自身の施策を聞くと6割の企業が共同研究費の増額を挙げた。だが研究費の30%の間接経費を認める企業は1割に満たなかった。

 文部科学省は「間接経費が30%以下では大学の持ち出しの方が大きくなる」という。対して企業の側に立つ経済産業省は間接経費の算出根拠を示すよう求めている。案件ごとに計算すると見積費用が発生するが、なかなか理解は得られないようだ。

 またクロスアポイントメント制度などで大学と企業で研究者を共同雇用する企業は14・1%。博士課程の学生への経済支援は4・2%と少ない。

 組織連携に参画する範囲は事業部門が45・5%でサプライヤーが20・2%。対して自社の経営層は16・0%と、経営者よりも社外のサプライヤーの方が連携の輪に入りやすいのかもしれない。

 中でもビジョン共有型の企業は間接経費以外の項目が総じて高い。事業部門の連携参画が研究費増額と同程度まで一般化している。ビジョン共有型の企業にとっても自社経営陣よりもサプライヤーの連携参加が多かった。

 大学と企業の組織連携が進むと、受託開発会社やサプライヤー、コンサルタントと大学が競合する可能性がある。三者と比較した大学のメリットを聞いた。

 自由記述式の設問のため、すぐに思いつく回答が多くなる。当社で回答を分類すると、原理原則などの基礎的な知見や専門性が優れるという回答が大半を占めた。専門性に優れない研究者とは連携しないため当然といえる。

 次ぎに多かった回答が費用対効果。受託開発会社とコンサルタントよりもコストが低いという回答が2割近くあった。事業責務や利害が発生するテーマを大学に任せる企業もある。

 サプライヤーとの連携は費用対効果は高いが、利害が発生しない大学に任せてオープン化したいニーズがみてとれる。富士ゼロックスは「技術やノウハウがブラックボックス化しない」と利点を挙げている。

 また組織連携でビジョンを共有するには産業全体を俯瞰する視点が必須だが、分野横断的な知見は回答が少なかった。費用対効果や人材のリクルートよりも少ない。

 研究計画や戦略の立案機能は連携を主体的に進めるために必須の機能だ。今後、機能強化と成功例の積み上げが求められる。
                  

                   

                 

              

研究開発アンケートの全文は日刊工業新聞電子版でご覧になれます
日刊工業新聞2017年7月25日の記事に加筆・修正
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
 企業は連携の組織化に向けて金額は増やすけど、大学運営を支える間接経費の負担は厳しい、博士課程の支援はもっと厳しいという結果になりました。大学と連携するメリットに費用対効果を挙げる企業は少なくなく、その利点を損なってでも連携の組織化や大型化を促すには大学に別のうま味が必要です。  それは研究の戦略立案機能だと思います。企業も研究企画や調査部門を縮小したのでリソースが足りない分野があり、大学でも補完できるかもしれません。ただ数年で企画立案代行はサチると思います。  大学は違えど、同じ学会、似たような人脈の先生が合理的に考えれば似た構想に収束し、中身だけが各先生が得意な技術に変わっている構想が出てきます。三つも四つもビジョン共有をしたい大学があるように思えず、一社一大学のペアでは旧帝大の総取りになりかねません。研究成果に付加価値を加える独自の工夫を組織化と並行して探さないといけないと思います。

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