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“店舗以外で売る”コンビニ

「ひと手間掛ける」に商機、人手不足も拍車
“店舗以外で売る”コンビニ

セブン―イレブンは商品の配達サービスの需要は今後も伸びると見る(東京都東村山市)

 コンビニエンスストアやスーパーマーケットが“店舗で売る”ビジネスモデルからの脱却にかじを切っている。店舗外での移動販売や配達、ご用聞きなど、「ひと手間掛ける」取り組みに商機を見いだす。一方で店舗運営を支える人材不足は慢性化している。各社は外国人や主婦の活用で、サービスを充実する構えだ。

 ローソンは2日に大分県杵築市の中山間地域で移動販売を始めた。市や地域の社会福祉協議会などと連携し、高齢者世帯の安否確認の役割も担っている。

 永松悟杵築市長は「移動販売が巡回するのは、小学校が閉校になり、子どもの声があまり聞こえなくなった地域。高齢者は(自動車)免許返納のプレッシャーを感じる一方、周辺に商店がなく、安心して暮らせない状況だ」と説明する。


 同社は冷凍やチルドなど四つの温度帯に対応した移動販売車に、約300品目を積み込んで地域をまわる。店舗で総菜やカット野菜を扱っているが、高齢者からは生鮮食品を買い、自分で料理したいとの声が多いという。

 そこで自社店舗では取り扱いが少ない刺し身や精肉を、近隣にあるJAグループの食品スーパー「Aコープ」で積み込んでいる。

 販売を担うのは、社会福祉協議会経由で応募した60代の男性だ。「この間頼まれた飲み物、持ってきたよ」「暑いね、アイスクリームあるよ」と、買い物客に積極的に声かけをしている。常連だった人が来なくなったり、会話で異変を感じたりした場合に、社会福祉協議会に伝えるのも大事な仕事だ。
ローソンは大分県杵築市の中山間地域で移動販売を開始、高齢者の安否確認の役割も担う

移動販売のニーズは過疎地だけではない


 移動販売に来る人の大半は高齢者だ。ただ、「日々の買い物は子どもがしてくれている」「普段は車で買い物をしている」と、現時点では買い物に不自由しているわけではないという。一人暮らしの女性は「(販売スタッフや他の買い物客と)交流できるのがいい」と好意的だ。

 ローソンの鈴木一十三マーケティング本部ラストマイル推進部長は「移動販売をやりたい店舗オーナーは多い」と語る。移動販売の需要があるのは、過疎地だけとは限らない。工事現場や高齢者施設などもまわっており、「ローソンが街に溶け込む一つのきっかけになっている」という。

 イオンリテールは5月、千葉県茂原市で移動販売を始めた。販売の起点となる茂原中央病院近辺はJR茂原駅前の「イオン茂原店」からは車で約5分、徒歩では約30分だ。ただ週末などはバスの本数が少なく、車がない住民は買い物が不便な状況だ。

 イオン茂原店のスタッフが生鮮食品などを軽トラックに積み、週4回巡回する。移動販売車にない商品がほしい場合はスタッフに注文すると、後の便で届ける。

 イオンリテールは千葉県や神奈川県で、移動販売を拡大する方針だ。採算性について、竹原秀治南関東カンパニーオムニチャネル事業統括マネージャーは「基本的に運転手が1人で巡回し販売もすることで、コストを抑える」と話す。

主婦起点にコミュニティーの場へ


 セブン―イレブン・ジャパンは日本総合住生活(東京都千代田区)と業務提携し、全国の団地内に、生活支援も手がける店舗を拡大する方針だ。

 すでに開いた店舗では、団地内へも配達している。古屋一樹セブン―イレブン・ジャパン社長は「コンビニは便利なだけではなく、今後ますます、コミュニティーの場になっていく」ととらえる。

 “ハイタッチな接客”。首都圏の食品スーパー、サミット(東京都杉並区)の竹野浩樹社長がたびたび口にするフレーズだ。同社は2年前に、店内を巡回して来店者の相談に応じる案内係の配置を始めた。

 案内係はタブレット端末「iPad」を持ち、来店者の質問に素早く答えられるようにしている。竹野社長は「商品ではなく、情報を無償で売る。双方向のコミュニケーションで、さまざまな情報を得ている」と効果を語る。
                 

 一方で店舗のオペレーションを支えるスタッフの採用は厳しい。大手コンビニ各社はいずれも24時間営業を止めることに否定的だが、そのシフトを維持するには「店舗当たり15人程度のスタッフが必要」(ファミリーマートの植野大輔改革推進室長)。しかし業務の多様化で負担が増していることもあり「約8割の店舗で、人手が足りない」(同)。時給も上昇傾向だ。

 ファミマは人手不足対策として、専門学校で外国人留学生と加盟店の面接会を開いている。5月末に参加した加盟店のmizunaya(東京都新宿区)は渋谷や新宿などの繁華街でファミマ店舗を経営している。今宮大介社長は「留学生の語学力に期待している」と目的を語る。

 ファミマは夏以降、主婦向けに特化した採用説明会も開く。植野改革推進室長は「主婦はコミュニケーション力や地域とのつながりがあり、学生や外国人をまとめてくれる人が多い」と狙いを話す。
ファミリーマートは専門学校で、加盟店と外国人留学生の面接会を実施

 セブン―イレブンも主婦に着目した。同社は商品の配達サービス「セブンミール」を00年に始めた。少子高齢化などで今後も需要が増えると見て、西濃運輸を傘下に持つセイノーホールディングス(HD)と業務提携し、セイノーHDはセブン―イレブンの配達専用会社のGENie(ジーニー、東京都中央区)を設立した。

 加盟店スタッフの代わりに配達やご用聞きを担う“ハーティスト”の大半は女性だ。河合秀治GENie社長は「配達というと男性のイメージが強いが、『地域貢献したい』という女性が多い。働く時間も選べるようにしている」と話す。

 地域のコミュニティーをつなぐ場として、小売りに寄せられる期待は大きくなっている。セルフレジや人工知能(AI)などを活用した省人化を図る一方、従業員が“おもてなし”に注力する流れは、「働きがい」の向上にもつながりそうだ。
(文=江上佑美子)
日刊工業新聞2017年6月26日
土田智憲
土田智憲 Tsuchida Tomonori かねひろ
商売のアウトドア化が面白い。働き方革命でもITモバイルの技術や、デザインを生かしたアウトドア化製品が、そのスタイルを支えている。BtoCだけでなく、地域におけるBtoBの営業でも、このスタイルが浸透してくると、地域にある面白い情報がもっと掘り起こされてくるようになるように思う。

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