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退任が決まったGEのイメルトCEOが株主に宛てた手紙

日米のコーポレートガバナンスの違いを浮き彫りに
退任が決まったGEのイメルトCEOが株主に宛てた手紙

イメルトCEO

 米ゼネラル・エレクトリック( GE)のジェフリー・イメルト会長兼最高経営責任者(CEO、61)が退任することになった。イメルト氏は2001年にCEOに就任、16年間にわたってGEのトップを務め、金融サービスから撤退し、製造業に再び軸足を移すなどの変化を遂げた。また2011年に提唱した「インダストリアル・インターネット」はあらゆるモノがネットにつながるIoTという言葉に置き換わり世界の製造業モデルを一新させた。

 一方で、直近でGEの株価は1年半ぶり安値まで下落。これを受け、アクティビスト(物言う投資家)などが圧力を強めていた。イメルト氏にとって、株価は常に課題だった。ウェルチ氏が20年間で株価を30倍にしたのに対し、イメルト時代のGEの株価は就任前の水準をなかなか上回らなかった。

 後任にはヘルスケア部門責任者のジョン・フラナリー氏(55)が指名された。8月1日付でCEOに就任し、来年1月から会長も兼任する。同社では2011年から後任人事の計画を練ってきたという。 フラナリー氏は1987年にGEに入社、2014年からヘルスケア部門を率いている。

 ここでは毎年の「アニュアルレポート」でイメルト氏が記している「株主の皆様への手紙(Letter to Shareowners)」を紹介する。

<2016年GEアニュアルレポート「株主の皆様への手紙」より>

この環境のなかで勝利を収める


 どのような組織であれ、いま、2つのマクロなテーマの影響を受けています。ひとつは、グローバリゼーションに対する考え方の変化、そしてもう片方は疲弊した産業界においてデジタル化が果たす役割です。いかなる企業も、この変化の波を避けて通ることはできません。

 GEは今日も、そして将来にわたり、グローバル企業であり続けます。しかし決して自らが「国籍のない多国籍企業」であるとは思っていません。GEは世界中の隅々で成功を収めているアメリカ企業であることを誇りに思っています。

 2000年当時、GEの収益の約70%はアメリカ国内によるものでした。今日では、受注の60%以上は世界中の市場からやってきます。この間、GEのグローバルな成長率は年間平均5%から10%を記録しました。

 たとえば、航空機エンジンやガスタービンはその85%を米国外に販売しています。グローバル市場で成功を収めることにより、GEはアメリカ国内で何千もの雇用を生み出しています。

 9.11の同時多発テロ後、米国の商業航空機市場は休業状態に陥りました。しかしGEは世界中で成功を収めていたため、この事業は安定しており、米国内の工場も休業することはありませんでした。現在では年間200億ドル超を輸出しており、世界のベストプラクティスを広げて顧客や業界との関係を築き続けています。

政府が経済に大きな影響、雇用創出に焦点


 とはいえ、グローバリゼーションに対する見方が変化しつつあることから、GEもまた機敏に対応していくことが重要です。経済がナショナリズムの方向に向かう傾向が世界中で強まっていることから、政府が経済に大きな影響を与え、地元での雇用創出に焦点を当てる動きがこれまでになく高まっています。

 米国は中国やドイツと同じ前提でグローバル市場の競争をしているわけではありません。これまで米国は、製造業の企業や勤労者に対してそれほど力添えをしませんでした。

 米国の関税政策は、輸出ではなく輸入を促進していたのです。米国のインフラは基準以下になってしまっており、関連法令はすでにズタズタな状態です。アメリカは機能する輸出銀行を持たない唯一の経済大国なのです。競争相手が変化を受け入れているなか、米国はもはや世界で独自の存在になっており、大半の分野の政策は時代遅れになっています。

「グラウンドの地ならし」で世界が静止することはない


 一方、他の国々はすでに動いており、「政府対政府」で売り込みをかけ、競争優位性をさらに伸ばすような貿易協定を締結して成長を促進しているのです。世界が静止することはありません。GEは、新政権がアメリカ企業にとっての「グラウンドを地ならししてくれる」ことを期待しています。

 GEは独自のグローバル化を遂げてきました。また、GEは、アウトソーシングとグローバリゼーションは違うということを理解しています。アウトソーシングはもう過去のものです。80年代や90年代に企業は安価な労働力を求めて発展途上国に進出しました。

 アメリカ企業を喜んで迎えた国に移転してしまったアメリカの職もいくらかあります。賃金の差から、仕事を失ったアメリカ人がいるのも事実です。

 しかし今日のグローバリゼーションの根底にあるのは、急速な成長を遂げる世界市場へアクセスする、という考え方です。GEは事業を行う世界中の国々への投資を行い、事業運営を進め、関係を築けば、成長のチャンスが確実にあると考えています。

 独創的な金融ソリューションを提供し、ジョイントベンチャー(合弁事業)を展開している当社には、成長の余地が非常に大きい市場における決定的優位性があります。

中国とエンゲージする戦略が必要


 グローバルで、かつローカル型であることは、当社が事業を行う世界180の国々で成功を収めるための必要能力です。さまざまな市場で実際に、また、常にプレゼンスを維持しており、GEが世界で成功を収めるということは、同時にアメリカにも利益をもたらすことになるのです。

 この国々には中国も含まれます。どの企業も、どの国も、この世界第2位の経済大国とエンゲージするには戦略が必要です。GEは中国での成長を続けます。

 ローカリゼーション能力、パートナーシップの構築、ならびに現地市場のための生産性高いデジタル・フレームワークを作り上げることによって、競争に挑んでいきます。GEは中国への純輸出企業です。

 私たちは中国の複数の建設会社と提携し、アフリカとアジアの市場で成功を収めるため、彼らの資金調達も後押ししています。GEの投資は中国とアメリカで雇用を生み出しており、更に、自社の競争力も高めているのです。

地元に根付いたイノベーション


 GEのイノベーションはまた、世界の最も難しい課題のいくつかを解決することができます。GEは長らくクリーン・エネルギー開発の先駆け的存在でもあり、また、手の届きやすい医療用技術も提供してきました。

 GEの機関車は南アフリカやブラジル、インドネシアで目にしていただけます。また、イラク、アルゼンチン、ナイジェリアでは電気を復旧させています。軍用機に搭載されているGEのジェットエンジンは、世界の平和を守っています。

 地元の問題は地元に根付いていなければ解決できません。GEは世界中のどの企業よりも最上のフットプリントを世界中に残している、と私は自信を持って申し上げます。

 同時に、GEが事業を行う場所の社会にもたらす恩恵は明確で、これは特にアメリカで直接に、また間接的に雇用している約100万人の人々について言えることです。

 彼らは質の高い仕事を所望し、GEがより強い企業として成長を続けられるよう、米国でも国外でも長期的な投資を行うことに期待を寄せています。

<次のページ、リーダーシップは将来性ある人々を惹きつける>

GE Reports Japan2017年3月8日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
 不祥事でもトカゲのしっぽ切りをする日本企業のトップもいる中で、このタイミングでの退任発表は改めて日米のコーポレートガバナンスの違いを浮き彫りにさせた。 イメルト氏は株価にはなかなか見えにくい企業価値を生んだ。それは社内カルチャーの変革。「GE ValueからGE Beliefs」へ 具体的には(1)お客様に選ばれる存在であり続ける(2)より速く、だからシンプルに(3)試すことで学び、勝利につなげる(4)信頼して任せ、互いに高め合う(5)どんな環境でも、勝ちにこだわる  日本の経営者からみればまだまだ若く経く経験も豊富。社外取締役でも呼んできて欲しい。ズバリ日立とか(コンフリクトあって難しいだろうけど)。

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