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経産省が「新産業構造ビジョン」で示した“アメとムチ"

未来志向の投資支援で構造改革迫る
経産省が「新産業構造ビジョン」で示した“アメとムチ"

29日に「コネクテッド・インダストリーズ」の普及で経済団体トップらとの懇談会を開いた世耕大臣(中央)

 経済産業省が2015年から議論してきた「新産業構造ビジョン」がまとまった。IoT(モノのインターネット)などが引き起こす第4次産業革命に向け、経済の大胆な変革を促し国力増強につなげたい考え。産業競争力強化法の改正も視野に企業へ収益構造の見直しを迫る一方、未来志向の投資は積極的に支援していく構えだ。こうした“アメとムチ”の施策により、どれだけ経営者の心を動かせるかが焦点となる。

非中核事業からの撤退を促す


 経産省は、29日に開いた産業構造審議会(経産相の諮問機関)新産業構造部会で議論の取りまとめを提示。6月に閣議決定される「日本再興戦略」に盛り込む方向だ。

 新たなビジョンは、既存の事業や体制の見直しを求める内容と、新産業創出関連の二段構えとなる。既存体制見直しの代表格が、事業再編の促進だ。国内の大企業は欧米勢と比べ、事業構造の転換で遅れがちなことが課題。このため経産省は、構造転換、特に非中核事業からの撤退を促すための環境整備を急ぐ。

 具体策として挙がるのが、産業競争力強化法の改正だ。現在、合併や事業譲受など構造改革の取り組みを「事業再編計画」として認定し、税制面などで優遇しているが、法改正により認定要件を緩和したい考え。

 これにより事業構造転換の意欲を喚起し、迅速な経営判断を引き出す。決断が遅れがちな大企業に構造転換を強く迫る経産省の姿勢が、はっきり見て取れる。

 さらに、昨今のコンピューターウイルス問題などを踏まえ、サイバーセキュリティー(情報の安全性)対策も強く求める。大企業を主な対象に、対策につながる投資への税制優遇を検討。

 これは裏を返せば、セキュリティー対策を行わない企業へのペナルティーともとれる。「ある程度強制力がないと、企業は動かない」と、ある幹部は言い切る。

“つながる”をキーワードに


 一方、成長に向けた取り組みは積極的に支援する構え。目玉と言えそうなのが、従来の規制が想定していなかったサービスの試験的実施を認める「レギュラトリー・サンドボックス(規制の砂場)」。

 フィンテック(金融とITの融合)関連などでの導入を視野に入れており、第4次産業革命の推進役として期待が集まる。このほか、企業単位で特例的に規制を緩和する「企業実証特例制度」の拡充なども検討。大胆な規制改革により、新事業創出を後押しする。

 また新ビジョンでは、政府の第4次産業革命に向けた戦略「コネクテッド・インダストリーズ(CI)」を施策の横断テーマに掲げる。

 “つながる”をキーワードに、「人やモノの移動」「スマートサプライチェーン」「健康・医療・介護」「新たな街づくり」を分野別の重点課題に設定。運転手に起因する事故の半減、労働生産性の向上、平均寿命と健康寿命の差の短縮など具体的目標も盛り込んだ。

 横断施策として、データ利活用ルールの整備、人材投資・育成の抜本拡充、技術革新循環の確立などを進める方針だ。

データ基盤づくりで海外に遅れ


 新産業創出策の根底にあるのが、第4次産業革命の第1幕とされる過去数年への反省だ。インターネット上のデータをめぐる競争では海外に主導権を握られ、「“小作人化”した産業もある」(産業再生課)。

 だからこそ、経産省が第2幕に位置付けるこれからの取り組みは重要だ。「健康・医療・介護、製造現場、自動走行など現実世界の『リアルデータ』をめぐる競争になる」(同)と予測。他国より豊富なリアルデータの蓄積を生かしたデータプラットフォーム(基盤)の創出を日本の勝ち筋とする。

 今後は構想をどう施策に反映させ、実現できるかが見どころだ。29日の審議では再編に関し「本当の意味での新陳代謝を起こすにはまだエネルギー不足」と厳しい指摘も出た。産業を変えつつ国を“あるべき姿”に導くため、経産省の力量が問われることになる。
                  
日刊工業新聞2017年5月30日
安東泰志
安東泰志 Ando Yasushi ニューホライズンキャピタル 会長
産業構造の転換のために、ノンコア事業の切り出しを促進することは重要だが、税制だけでなく、受け皿となる独立系PEの育成にも目を向けて欲しい。また、レギュラトリー・サンドボックスを謳いながら、一方では官民ファンドを使って特定企業支援やターゲティングポリシーを企図しているように見えることもあり、経産省としての姿勢を統一した方がいいのではないか。

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