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トヨタの独ネットワーク規格採用は「つながる工場」の歴史的転換点

文=八子知礼(ウフル上級執行役員)フィールドネットワークの標準が決まった
トヨタの独ネットワーク規格採用は「つながる工場」の歴史的転換点

EtherCATのホームページより

 トヨタ自動車がドイツのFA(工場の自動化)老舗ベッコフオートメーションが推進する工場フィールドネットワーク規格「EtherCAT(イーサキャット)」を採用した。この衝撃は計り知れないほど大きく、今後の「つながる工場」のあり方において歴史的転換点と言っても良いかもしれない。

 系列の最上位にいるOEM(サプライヤー)が率先採用して展開することで、国内外の自動車産業におけるフィールドネットワークの標準が決まったと言っても過言ではないこと。

 もはや繋がらない閉鎖的な国産技術にこだわっていられないことが明白。「日本はFAで世界に先駆けて自動化に邁進してきたからIoTなんて・・」という、繋がらない時代の栄光にすがろうとする風潮は怒涛のように崩壊する。

 工場、機械、データ、モノがつながり、一気にIoT化が進むことだろう。

「ドイツか日本かは関係なく、もっともいい技術を採用した」(トヨタ)


日刊工業新聞2016年4月28日


 【ハノーバー=清水信彦】トヨタ自動車は工場の生産設備をつなぐネットワークの規格に「イーサキャット」を採用する。ドイツで開発・オープン化された通信規格で、高速性に加えて省配線化が可能。IoT(モノのインターネット)技術への対応が進んでいるため、工場自動化(FA)ネットワークの標準規格として採用を決めた。29日までドイツで開催中の「ハノーバーメッセ2016」会場でトヨタが明らかにした。今後導入する工場設備には、標準の通信規格として対応を求める。取引先には3月に通知した。

 トヨタは従来、日本電機工業会が策定した「FL―net」を標準として使ってきた。対応機器が日本製にほぼ限られており種類も少ないことや、IoT化対応の必要性などから次世代ネットワーク選定を進めていた。

 トヨタの大倉守彦先進技術開発カンパニー工程改善部長は「リーンな生産ラインを作るには間違いなく必要な技術。開発したのがドイツか日本かは関係なく、もっともいい技術を採用した」とした。

ベッコフのシステム、PLCを介さず直接データを送信


 独ベッコフオートメーションはIoTシステムに参入する。同社の主力はプログラマブルコントローラー(PLC)などの工場自動化(FA)機器。今回、「インダストリー4・0」の標準通信技術を使って、PLCを介さずに、インターネット上のIoTシステムにFA機器から直接データを送れる機器を発表した。

 現在は米マイクロソフトの「アジュール」やSAPの「SAP HANA」などのIoTシステム基盤に対応する。今後は自社でのシステム開発に乗り出す。IoTシステムは各社の新しいサービスがつぎつぎ生み出されており、相互運用性が問題になってくる。

FA業界のレッドオーシャン化は避けられない


日刊工業新聞2015年10月20日


 「モノのインターネット(IoT)」技術を駆使して工場のシステムをさまざまに連携させ、製造業に新しい価値をもたらすドイツ発の新・産業革命「インダストリー4・0」。実用化が進めば、工場とそれを動かす工場自動化(FA)技術やそれを担う業界を一変させることは確実だ。だが標準化の動きは始まったばかりで、そのインパクトはまだわからない。I4・0で工場はどう変わるのか。ドイツ現地取材を交え紹介する。

 「最終的に、レッドオーシャン(血で血を洗うような激しい競争が繰り広げられる事業領域)になることは避けられないだろう」―。ドイツの有力FA機器メーカー、ベッコフオートメーションの日本法人(横浜市中区)社長を務める川野俊充氏の見立ては、FA業界にとって厳しいものだ。「しかし一方でユーザー側には、選択肢が増えるメリットがある」(川野氏)。

 現時点ではスローガンやイメージが先行し、技術的な中身がわかりにくいインダストリー4・0。要はFAの世界にも、インターネットのような標準化やオープン化の波が押し寄せていると考えればいい。「パソコンはドライバーソフトを入れればプリンターなどいろいろな機器がつながる。同じことがFAの世界で起きる」(川野氏)という。

 FA業界はこれまで、信頼性という高い壁に守られてオープン化の波を退けてきた。企業全体を支える基幹システムであるERP(統合業務システム)はオープン環境で稼働している。一方でその下位層にあって、個々の工場の生産現場の情報を管理する製造実行システム(MES)は、ERPとは自動連携していない場合がほとんどだ。

勝ち組はオープン戦略をとる大企業


 さらにMESの下で動く、FAシステムの頭脳であるプログラマブルコントローラー(PLC)や、機器の動作を制御するモーションコントローラー、工作機械の数値制御(NC)装置、サーボモーターなどは、オープン性よりは信頼性や高速応答性を主眼に開発、利用されてきた。これらFA機器同士をつなぐネットワークも、一応はオープン規格とされるものの、実質的には開発元企業が中心となって運営してきた歴史がある。

 インダストリー4・0の実用化が進めば、それが変わる。まずはERPとMESが連携し、さらにはFA機器やFAネットワークも外部と連動できるようにならなければ「つながる工場」は実現できない。

 川野社長はまず勝ち組なのは、オープン戦略を取る大企業、次に今後の成長が期待できるのが、小規模だがオープンな製品を持つ企業、もっとも危機にあるのが、クローズド戦略を取る大企業だという。

 「日本のFA業界でも、提携や買収が目立ってきた。これはオープン戦略により、大企業が勝ち組を目指す動きだと考えていい」(川野社長)。FA業界の地殻変動はすでに始まっている。

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明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
FA業界で気になるといえばPLCで国内最大手の三菱電機だ。1年ほど前に、同社の通信やネットワークに詳しい役員とインダストリー4・0に関して意見交換したことがある。その人は非常に危機感を持っていて、マネジメントチームも標準化への意識についてある程度共有されていると話していた。ただし、FA機器の事業本部は、現在のビジネスにしばられ後手後手に回る可能性がある、とも言っていた。今のところ、オムロンの方が2番手のポジションゆえ攻めている印象がある。三菱電機も賢明な判断ができると信じる。 トヨタのリリースに関しては、日独のIoT連携声明に呼応しているのは間違いないだろう。

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