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【三菱重工業 劇場型改革の真価#09】巨大プロジェクトの損失を止めろ!

<挑戦する企業アーカイブ>「グループの中から最も良い”人財“を引き抜く」(宮永社長)
【三菱重工業 劇場型改革の真価#09】巨大プロジェクトの損失を止めろ!

MRJの組み立て(三菱重工公式ページより)

 “機械のデパート"が総合力を発揮し、真のコングロマリットプレミアムを実現するには何が必要か。社長の宮永俊一はある腹案を用意する。全社横断のエンジニアリング本部。交通システムや客船、化学・発電プラント、製鉄機械など「グループの中から最も良い”人財“を引き抜く」(宮永)形で、各事業のエンジニアリング機能を集約した、いわば人財プールである。

 毛色の異なる事業をいくつも抱える三菱重工業。プロジェクトが巨大化するに従い、その根元を支える一つの失敗が大きな損失を生む。

 納期遅延を繰り返す客船や国産小型旅客機「MRJ」などに垣間見られるように、一層の飛躍を遂げるには、全社の知見を集め、リスクを「極端な振れ幅のない形で押さえ込む」(宮永)プロジェクト管理手法が不可欠だ。モノづくりのプロセスとは異なるエンジ機能の拡大がカギを握る。

 実はエンジ本部は、2014年度までの前中期経営計画にも存在していた。ただ、当時は三菱日立パワーシステムズ(MHPS)の立ち上げやドメイン制への移行などが同時並行で進んでおり、エンジ本部を「いったん発展的に解消した」(宮永)経緯がある。

エンジ本部のメリットは、事業ごとに異なる需要の山谷を吸収し「低採算案件を無理に取らなくても、仕事のある所にリソースを配分できる」と化学プラントに長年従事してきた執行役員の坂(ばん)洋一郎は説明する。

 新生エンジ本部の骨格は現在調整中だが、例えばカタールの地下鉄「ドーハメトロ」に代表されるような交通システムの大規模案件を含め、より全社横断の組織を指向。EPC(設計・調達・建設)事業を軸に、機器納入からアフターサービスまでの一貫体制を目指すことになりそうだ。

 スケジュールやコスト管理、顧客との交渉など、各事業でかなり重なる部分を「細切れでつかうのはもったいない」(坂)。

 EPCは日揮や千代田化工建設といったエンジ専業会社のお家芸。だが専業でないがゆえの強さもある。「当社のエンジ力の強さは、ハードに近い所でEPCをやっているところにある」と坂。

 例えば大型案件受注の相次いだ肥料プラントでは、コンプレッサーやタービンなどの主機はグループが手がける。機器を持つことで「不具合への対応が迅速になり、納入スケジュールにも融通が利く」(坂)という利点がある。

 エンジ力強化の全社方針は幹部人事に色濃く反映されている。MHPS社長の西澤隆人、執行役員エネルギー・環境ドメイン副ドメイン長の藤原久幸、客船建造の責任者に抜擢された執行役員の星野直仁、顕在化した”今そこにある危機“を最小化するリスクソリューション室長で執行役員フェローの三島正彦らは化学プラントや台湾新幹線などでグローバル経験を積み、大規模案件への対応力が豊富。三菱航空機社長の森本浩通は、原動機部門の出身で発電プラントの経験を持つ。

 米ゼネラル・エレクトリック(GE)や独シーメンスがEPCから一歩引いているのも、リスク管理の難しさが背景にある。エンジ本部の稼働は「GEなどに対する新しい打ち手となる」(宮永)だろう。

 三菱重工は15―17年度の損益予想に年500億円の特別損失を織り込んだ。特定の事業損失を想定してはいないが、「リスクを軽減できた分は配当に還元したい」(宮永)との思いからだ。エンジ能力の拡大が、”第二の創業“の発射台になるのは間違いない。
(敬称略)
※内容、肩書は当時のもの

「見直したスケジュールを守る」(MRJ社長)


水谷三菱航空機社長

 三菱航空機(愛知県豊山町)は2日、三菱重工業の水谷久和常務(65)が4月1日付で社長に就任すると発表した。森本浩通社長(62)は3月31日付で退任し、三菱重工特別顧問に就く。開発中の国産小型ジェット旅客機「MRJ」の納入延期を受け、防衛・宇宙ドメイン長の水谷氏が社長に就き、三菱重工の主導体制が強まる。

 水谷氏は防衛・航空部門出身。総務、法務、人事などの経験が豊富で経営・管理体制を強化する。森本社長は就任2年で退任となる。
【略歴】水谷 久和氏(みずたに・ひさかず)75年(昭50)名大経卒、同年三菱重工業入社。10年執行役員、11年取締役、13年常務執行役員、14年防衛・宇宙ドメイン長。三重県出身。

 三菱航空機(愛知県豊山町、水谷久和社長)の水谷社長は4月1日付の就任後初めて報道各社の取材に応じ、開発中の国産小型ジェット旅客機「MRJ」の試験機を6月にフランスで開かれる世界最大級の航空宇宙産業展「パリ国際航空ショー」に出展する考えを明らかにした。MRJの実機展示は初となる。

 5度目の納入延期など開発に苦戦する中、「見直したスケジュールを守る」と量産初号機の2020年半ばの納入への決意も示した。

 パリ国際航空ショーなどではこれまで客室模型を展示していた。水谷社長は米国で実施中の飛行試験の進捗(しんちょく)次第としながらも、「持ち込む方向で議論している」と実機の出展に意欲を示した。

 納入延期が度重なるMRJの開発は、三菱重工業本社が直轄する体制に移行。重要事項は宮永俊一三菱重工社長が判断し、水谷社長は「三菱航空機のガバナンスが逸脱していないか見守る」のが自身の役割とした。

 今後の開発計画については秋までとする設計見直しを「必ず成し遂げる」と強調。増員した外国人技術者の知見を生かしているとして「当面の開発はうまくいく」と手応えを表明した。

 量産計画については「17年の時点では見えず、まだ時間がかかる」とした。サプライヤーに対して開発遅れで迷惑をかけたとした上で「各社と個別に話して理解してもらう」と述べた。

納期延期以降キャンセルなし


 三菱航空機は19日、開発中の国産小型旅客機「MRJ」について、1月に5度目の納期延期を表明して以降、受注キャンセルは発生していないことをあらためて示した。MRJの受注総数は400機(オプション含む)に上るが、都内で開いた説明会で「キャンセルの話が目の前にあるということはない」(三菱航空機)とした。

 ただ、ローンチカスタマー(初号機を受領する顧客)のANAホールディングスは、MRJの一部代替として米ボーイングの機体を代替調達する方針。他の航空会社も発注計画を変更する可能性もあり、三菱航空機は最大需要地の米国などで顧客のつなぎ留めが必要となりそうだ。

日刊工業新聞日刊工業新聞2017年2月3日/4月20日


長塚崇寛
長塚崇寛 Nagatsuka Takahiro 編集局ニュースセンター デスク
化学プラントなどのエンジニアリング事業に集まっていた精鋭を集約し、ハード、ソフト、IoT(モノのインターネット)を組み合わせることで、最先端のEPC(設計・調達・建設)事業への転換を図る。交通・都市システムや二酸化炭素回収、高速鉄道システムなどをエンジニアリング事業の成長分野に位置づける。

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