ブロックチェーン、実証進みブレーク「前夜」
日本取引所グループ(JPX)での実証実験がトリガーに
取引履歴などを分散ネットワーク上で参加者間で共有しながら安全にやりとりできる「ブロックチェーン(分散型台帳)」技術が脚光を浴びている。金融機関を中心に実証実験が相次ぐ一方で、物流の追跡システムをはじめ一般産業へと適用範囲が拡大しつつある。技術面ではいくつかの課題があるが、実用化に向けてどう解決するかが腕の見せ所となっている。
ブロックチェーンは仮想通貨の基盤技術として知られるが、それは応用分野の一つでしかない。国内外の金融機関やITベンダーらは、低コストで堅ろうなブロックチェーン技術を金融取引はもとより、あらゆる産業分野での次世代プラットフォームに活用しようと、相次ぎ実証実験に乗り出している。
これまでブロックチェーンはどちらかといえば話題が先行。実態としては「当面は黎明(れいめい)期が続く」(ITベンダー)との見方もあったが、この1年間で様相が変わってきた。
トリガーとなったのは日本取引所グループ(JPX)が2016年4月から始めたブロックチェーンの実証実験だ。参加したのは、ユーザー側が三菱東京UFJ銀行や野村証券など6社。ITベンダーは日本IBM、野村総合研究所、カレンシーポート(東京都千代田区)の3社。
JPXは検証結果を踏まえ、同年8月に「金融市場インフラに対する分散型台帳技術の適用可能性について」と題する報告書をまとめた。こうした報告書は世界的にも珍しく、金融機関はもとより広く産業界からも注目された。
証券取引所では株の売買が中核業務であり、そこではスピードや一括処理能力を競う高度なシステムが求められ、ブロックチェーンには適さない。しかし、取引終了後の資金・証券の決済や株式の移転、配当金の支払いなどはブロクチェーンの適用が可能。むしろ有望分野として実証された。
JPXは16年11月にも日本IBMの協力を得て、実証実験を実施。さらに自らがブロックチェーンのインフラを用意して、新たな実証実験を17年春以降に始めると表明。銀行や証券会社などに広く参加を呼びかけたことから、ブロックチェーンの実用化に向けた取り組みが一気に加速している。
メガバンクは証券取引以外にも、さまざまな活用を検討中。詳細は明らかではないが、三菱東京UFJ銀行は契約業務向けに「スマートコントラクト」と呼ぶブロックチェーンの取引ルールを活用。三井住友銀行、みずほ銀行は貿易金融で必要な書類の管理や、やりとりなどに積極的なようだ。
ブロックチェーンは取引履歴をネットワーク接続された複数のコンピューターに「ブロック単位」で分散させ、相互に認証しながらやりとりする仕組み。取引履歴がチェーンのように時系列でつながって記録されるため、ブロックチェーンと呼ばれている。
利点は大きく二つある。一つは、履歴を分散し相互認証する仕組みのため、特定の管理者あるいは中央の管理サーバーが不要なうえ、改ざんや攻撃に強いこと。
もう一つは従来型のシステムに比べて100分の1とも評されるコストパフォーマンス(費用対性能)だ。金融取引などのシステム構築は数十億―数百億円と巨額だが、ブロックチェーンならば「桁違いに安く実現できる」(ITベンダー)という。
ただ、ブロックチェーンはまだ発展途上の技術であり、「リップル」「ネム」「オーブ」などさまざまな方式が乱立。それぞれに強みと弱みがある。
なかでも、一般産業向けで賛同者が多い方式は「ハイパーレジャー」。オープンソースの世界的な団体「リナックスファウンデーション」の配下で、三つの公式プロジェクトが動いている。
具体的には、(1)米IBMと米デジタル・アセット・ホールディングス(DAH)が提案した「ハイパーレジャー・ファブリック(Fabric)」、(2)米インテルが主導する「ハイパーレジャー・ソートゥース・レイク(Sawtooth Lake)」、(3)日本勢を中心とする「ハイパーレジャー・イロハ(Iroha)」―の三つを指す。
ファブリックは日本取引所グループが実証実験でも採用したもの。4月に標準仕様「1・0のベータ版」が策定され、実用化に向けて先陣を切っている。ソートゥース・レイクはIoT(モノのインターネット)端末への搭載可能なチップ技術として登場する見通し。
イロハを提案したのはベンチャー企業のソラミツ(東京都港区)を筆頭に日立製作所、NTTデータ、イスラエルのColu。パートナーにはパナソニックやみずほ情報総研なども名を連ねている。
ハイパーレジャーの先導役はITベンダー。これに対して、世界の大手金融機関を中心にブロックチェーンを使った金融取引の共同基盤を提唱するのが「R3コンソーシアム」だ。日系の大手ITベンダーやメガバンクはこちらにも参画している。
ブロックチェーンは仮想通貨の基盤技術として知られるが、それは応用分野の一つでしかない。国内外の金融機関やITベンダーらは、低コストで堅ろうなブロックチェーン技術を金融取引はもとより、あらゆる産業分野での次世代プラットフォームに活用しようと、相次ぎ実証実験に乗り出している。
1年で様相変わる
これまでブロックチェーンはどちらかといえば話題が先行。実態としては「当面は黎明(れいめい)期が続く」(ITベンダー)との見方もあったが、この1年間で様相が変わってきた。
トリガーとなったのは日本取引所グループ(JPX)が2016年4月から始めたブロックチェーンの実証実験だ。参加したのは、ユーザー側が三菱東京UFJ銀行や野村証券など6社。ITベンダーは日本IBM、野村総合研究所、カレンシーポート(東京都千代田区)の3社。
JPXは検証結果を踏まえ、同年8月に「金融市場インフラに対する分散型台帳技術の適用可能性について」と題する報告書をまとめた。こうした報告書は世界的にも珍しく、金融機関はもとより広く産業界からも注目された。
証券取引所では株の売買が中核業務であり、そこではスピードや一括処理能力を競う高度なシステムが求められ、ブロックチェーンには適さない。しかし、取引終了後の資金・証券の決済や株式の移転、配当金の支払いなどはブロクチェーンの適用が可能。むしろ有望分野として実証された。
広く参加呼びかけ
JPXは16年11月にも日本IBMの協力を得て、実証実験を実施。さらに自らがブロックチェーンのインフラを用意して、新たな実証実験を17年春以降に始めると表明。銀行や証券会社などに広く参加を呼びかけたことから、ブロックチェーンの実用化に向けた取り組みが一気に加速している。
メガバンクは証券取引以外にも、さまざまな活用を検討中。詳細は明らかではないが、三菱東京UFJ銀行は契約業務向けに「スマートコントラクト」と呼ぶブロックチェーンの取引ルールを活用。三井住友銀行、みずほ銀行は貿易金融で必要な書類の管理や、やりとりなどに積極的なようだ。
ブロックチェーンは取引履歴をネットワーク接続された複数のコンピューターに「ブロック単位」で分散させ、相互に認証しながらやりとりする仕組み。取引履歴がチェーンのように時系列でつながって記録されるため、ブロックチェーンと呼ばれている。
特定の管理者不要
利点は大きく二つある。一つは、履歴を分散し相互認証する仕組みのため、特定の管理者あるいは中央の管理サーバーが不要なうえ、改ざんや攻撃に強いこと。
もう一つは従来型のシステムに比べて100分の1とも評されるコストパフォーマンス(費用対性能)だ。金融取引などのシステム構築は数十億―数百億円と巨額だが、ブロックチェーンならば「桁違いに安く実現できる」(ITベンダー)という。
ただ、ブロックチェーンはまだ発展途上の技術であり、「リップル」「ネム」「オーブ」などさまざまな方式が乱立。それぞれに強みと弱みがある。
3つの公式プロジェクト
なかでも、一般産業向けで賛同者が多い方式は「ハイパーレジャー」。オープンソースの世界的な団体「リナックスファウンデーション」の配下で、三つの公式プロジェクトが動いている。
具体的には、(1)米IBMと米デジタル・アセット・ホールディングス(DAH)が提案した「ハイパーレジャー・ファブリック(Fabric)」、(2)米インテルが主導する「ハイパーレジャー・ソートゥース・レイク(Sawtooth Lake)」、(3)日本勢を中心とする「ハイパーレジャー・イロハ(Iroha)」―の三つを指す。
ファブリックは日本取引所グループが実証実験でも採用したもの。4月に標準仕様「1・0のベータ版」が策定され、実用化に向けて先陣を切っている。ソートゥース・レイクはIoT(モノのインターネット)端末への搭載可能なチップ技術として登場する見通し。
イロハを提案したのはベンチャー企業のソラミツ(東京都港区)を筆頭に日立製作所、NTTデータ、イスラエルのColu。パートナーにはパナソニックやみずほ情報総研なども名を連ねている。
ハイパーレジャーの先導役はITベンダー。これに対して、世界の大手金融機関を中心にブロックチェーンを使った金融取引の共同基盤を提唱するのが「R3コンソーシアム」だ。日系の大手ITベンダーやメガバンクはこちらにも参画している。
日刊工業新聞2017年5月3日