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脚光浴びるブロックチェーン。金融・ITで主導権争い

標準化巡り攻防
脚光浴びるブロックチェーン。金融・ITで主導権争い

JPXはブロックチェーン技術の実証に乗り出した(東証アローズ)

 インターネットを置き換える潜在力を秘めた革新的な技術として、「ブロックチェーン」が脚光を浴びている。一般に「分散型台帳技術」と訳すが、ビットコインなどの仮想通貨の基盤技術といった方が分かりやすい。ただ用途は金融取引に限らず、さまざまな産業への展開が期待されている。このため海外では金融機関のみならず、米IBMや米マイクロソフト(MS)などITの巨人によるブロックチェーンの標準化を巡る綱引きも白熱している。

IBM、マイクロソフトそれぞれの思惑


 世界の大手金融機関を中心にブロックチェーンを使った金融取引の共同基盤を提唱するのが「R3コンソーシアム」だ。メンバーは42社にのぼる。船頭が多すぎるとの指摘もあるが、開発陣には米グーグル出身で「グーグルアース」などを作った実力者らも参加しており、今後の展開が注目されている。

 これに対して「ブロックチェーンを一般産業向けに活用しよう」と、オープンソースの世界的な団体「リナックスファウンデーション」の傘下で、2月に「ハイパーレジャー・プロジェクト」が立ち上がった。これを先導するのは米IBMだ。IBMは2年前から急ピッチでブロックチェーンの開発を進め、ハイパーレジャー・プロジェクトの立ち上げを機に、満を持して、自社のソースコード(プログラム)をプロジェクトに寄贈(公開)した。

 さらにソースコードの寄贈(公開)を広く募集したところ、インテルや海外送金で実績を持つリップルなども賛同し、標準化に向けた勢いが増している。

 ハイパーレジャー方式はビットコインとは一線を画し、企業利用を前提に、信頼できる者同士でコンセンサスを形成しようとしている。

 日本IBMの高城勝信ブロックチェーン・アーキテクトは「ビットコインはセキュリティーとプライバシー対策が中途半端だ」と指摘する。

 IBMの戦略は「センサーとつなげてデータを収集するIoTの仕組みとして、ブロックチェーンを活用すること」(高城氏)。IBMのクラウドサービス基盤ではいち早くハイパーレジャー方式のブロックチェーンを乗せて、誰もが試せるようにしている。

 一方、ビットコインと並ぶ仮想通貨として実績があるのは「イーサリアム」。推進役は欧州のオープンソース団体「イーサリアム・ファウンデーション」で、これをMSが後押しする。

 MSはブロックチェーンの開発自体には踏み込まず、自社のクラウド基盤「アジュール」を売るための戦略としてブロックチェーンのサービス化を全面支援していく構え。すでにアジュール上でイーサリアムが動き、さまざまな提案を行っている。

ベンチャー大同団結


 国内のメガバンクや大手ITベンダーなどはR3やハイパーレジャーなどの活動に参画する一方、まずは自ら試そうという段階だ。日本取引所グループ(JPX)も実証実験に動きだしている。

 ITベンダーでは日本IBM、富士通NEC、野村総合研究所、電通国際情報サービス、日本マイクロソフト、NTTデータなどが実証実験に意欲的だ。

 日立製作所も最近になって、ハイパーレジャーに参加した。このほか、テックビューロ(大阪市西区)など国内ベンチャー企業34社が大同団結し、4月に「ブロックチェーン推進協会」を旗揚げするなど、さながら「ブロックチェーン元年」といった様相だ。ブロックチェーンの本格登板はここ1、2年なのか、5―10年先なのか。今後の動きから目が離せない。
日刊工業新聞2016年5月27日「深層断面」から抜粋
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
21日閉幕した主要7カ国会議(G7)財務相・中央銀行総裁会議でも、仮想通貨への規制が議論にのぼり、負のイメージが強い。しかしビットコインはブロックチェーンの用途の一つに過ぎない。その利点を生かして、一般産業向けに活用しようと、さまざまなプレーヤーが国内外で動きだしている。 なぜブロックチェーンが注目されるのか。理由は大きく二つある。一つは「ピア・ツー・ピア(P2P)」と呼ばれる分散型ネットワーク環境で、知らない者同士がやりとりしながら、情報のコンセンサスを全体として形成できること。もう一つは、従来型のシステムに比べて100分の1ともいわれる優れたコストパフォーマンスだ。金融取引などのシステム構築費用は数十億―数百億円と巨額だが、ブロックチェーンならば「ケタ違いに安く実現できる」(業界関係者)との期待が大きい。

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