トヨタグループ中核8社で、今期に過去最高益を見込む1社とは
アイシン精機、変速機が大幅の伸張。経営計画見直しへ
トヨタ自動車グループ8社の2018年3月期連結業績予想は5社が実質営業増益を見込む。円高が減益要因となるが、北米や自動車最大市場の中国などでの収益拡大で補う。豊田自動織機と豊田通商は18年3月期から任意適用する国際会計基準(IFRS)との比較で、豊田通商は売上高を今回から示さない。デンソーは売上高で、アイシン精機は売上高と営業・経常利益で過去最高を予想する。
各社の想定為替レートは1ドル=105―110円、1ユーロ=115円。豊田通商を除く7社の設備投資合計は前期比1071億円増の9375億円と大幅に伸びる見通しだ。
デンソーの設備投資計画は前期比76億円増の3450億円、研究開発費は同158億円増の4250億円。有馬浩二デンソー社長は「収益力アップと開発投資は両輪。覚悟を持って為替に打ち勝つ体質を作り上げる」と、将来の成長に向けた高水準の投資を継続する意向を強調する。
豊田織機は会計基準を変更する影響で売上高が大幅に下がるが、同じ会計基準なら増収増益の見込み。
カーエアコン用コンプレッサーは北米や中国で販売が堅調で、前期比95万台増の3350万台の計画。米国はトランプ大統領の保護主義に懸念もあるが「現地生産が進んでいるので、成長市場として期待感を持っている」(大西朗豊田織機社長)。
アイシン精機は自動変速機(AT)の販売が中国などで好調で、前期比111万台増の980万台に伸長する。伊原保守アイシン社長は「ATは1000万台の体制が整う」と、3年程度計画が前倒しになる見込みのためマスタープラン(基本計画)を見直すという。
前震と本震で震度7を記録した熊本地震から1年超が経過した。アイシン精機は子会社のアイシン九州(熊本市南区)が被災し、ドア開閉制御部品「ドアチェック」の供給量不足でトヨタ自動車が全国の車両組み立てラインの大半を段階的に停止する事態に陥った。さらに昨年、アイシンではグループ会社の事故も5月、7月、8月と相次ぎ、試練の年となった。
熊本地震からの復旧を、アイシン精機の伊原保守社長は「感謝と執念」と表現する。2011年の東日本大震災の時、トヨタ自動車の専務で調達本部長として修羅場を経験している伊原社長。アイシン九州の被災工場を目にし、復旧には時間がかかると直感した。落下した天井クレーンはプレス機を押しつぶし、ラックから金型も飛び出していた。
しかし、「4月19日にここに来たときには想定できなかった」(伊原社長)というほど対応は早かった。設備や建屋の破損・損傷などでアイシン九州での生産を断念し、23日には取引先の工場でドアチェックの代替生産が始まった。海外工場からも緊急輸入して急場をしのいだ。
本震後には、あるうわさが流れていた。「アイシン九州がなくなるのではないか」。代替生産のために次々と設備が工場外に持ち出される光景は、社員や地域関係者を不安にさせた。4月22日15時。アイシン九州の高橋寛社長は「必ずこの地で復活する」と全社員を前に宣言。代替生産のお願いと、雇用を守って8月をめどに生産工程を戻すと約束した。
すると、少なかった代替生産先への派遣希望者が一気に増えた。受け入れ先のトヨタ自動車九州小倉工場(北九州市小倉南区)ではサンルーフ、トヨタ紡織九州(佐賀県神埼市)やこれまで取引のなかったヨロズ大分(大分県中津市)ではシート部品を生産してもらった。
代替生産先は九州7カ所、愛知県7カ所の合計14カ所。アイシン九州から345人が出向した。物流拠点も九州5カ所、愛知1カ所に設置して対応した。8月22日には高橋アイシン九州社長が「生産開始宣言」を実施。今では大半の社員が出向先から復帰した。
ドアチェックは在庫5日分を愛知県で確保し、当面のリスクを回避。アイシングループでも災害時に供給量に懸念のある約20品目で在庫を持ち、善後策を練る。
熊本地震で大きな被害を受けたアイシン九州(熊本市南区)には、地震直後に親会社のアイシン精機グループのほか、トヨタ自動車や日産自動車、マツダからも支援部隊が飛んだ。連日、アイシン九州と子会社のアイシン九州キャスティング(同)が約400人、自動車メーカーなどから約250人、アイシングループから約350人の合計1000人体制で復旧を急いだ。
生産移管先を決め、4月下旬から5月初めにかけて「前代未聞の代替生産」(伊原保守アイシン精機社長)を迅速に進めた。しかし、熊本地震からの立て直しに力を注いでいたさなか、思わぬ事態が発生する。
5月30日。グループ会社で自動車用ブレーキ大手のアドヴィックス(愛知県刈谷市)の刈谷工場(同)の塗装工程で爆発事故が起きた。
事故を起こした工程以外は同日に順次、稼働したが事故工程の再稼働は8月10日。海外からの輸入や代替生産でしのいだものの、事故直後はトヨタやスズキが車両組み立てラインを一時止めた。
さらに、表面処理を手がけるグループの愛知技研(同)でも7月6日にガス発生事故が起き、工場外にもガスが流出。アイシンの伊原社長が同21日に愛知県の大村秀章知事を訪ねて謝罪し、再発防止策を発表した。
だが、8月21日には再び愛知技研の別の生産ラインで火災が発生。愛知技研はどちらの事故も生産復旧や在庫により、取引先への悪影響を防いだ。愛知技研のガス発生事故について伊原社長は「増産で忙しくなり、作業者がタンクの掃除もかけ持ちして操作を間違えた」と説明する。
そのため、国内のグループ73社で安全や地震、コンプライアンス(法令順守)の対策を再確認。安全については現場任せにせず、管理者層が現場に出向いて困りごとの聞き取りなどを徹底し、事故の再発防止策を講じている。
アイシンは2016年4月13日、偶然だが熊本地震の前日に大規模地震対策委員会を開き、三矢誠副社長をCRO(最高リスク管理責任者)に、岡部均副社長を対策本部長に指名した。
自宅から本社に歩いて通える岡部副社長を戦略的に対策本部長に据えたため、初動が早かった。地震と事故で短い間に得た多くの教訓は、企業力の強さにつながっている。
各社の想定為替レートは1ドル=105―110円、1ユーロ=115円。豊田通商を除く7社の設備投資合計は前期比1071億円増の9375億円と大幅に伸びる見通しだ。
デンソーの設備投資計画は前期比76億円増の3450億円、研究開発費は同158億円増の4250億円。有馬浩二デンソー社長は「収益力アップと開発投資は両輪。覚悟を持って為替に打ち勝つ体質を作り上げる」と、将来の成長に向けた高水準の投資を継続する意向を強調する。
豊田織機は会計基準を変更する影響で売上高が大幅に下がるが、同じ会計基準なら増収増益の見込み。
カーエアコン用コンプレッサーは北米や中国で販売が堅調で、前期比95万台増の3350万台の計画。米国はトランプ大統領の保護主義に懸念もあるが「現地生産が進んでいるので、成長市場として期待感を持っている」(大西朗豊田織機社長)。
アイシン精機は自動変速機(AT)の販売が中国などで好調で、前期比111万台増の980万台に伸長する。伊原保守アイシン社長は「ATは1000万台の体制が整う」と、3年程度計画が前倒しになる見込みのためマスタープラン(基本計画)を見直すという。
試練の連続から得た強さ
前震と本震で震度7を記録した熊本地震から1年超が経過した。アイシン精機は子会社のアイシン九州(熊本市南区)が被災し、ドア開閉制御部品「ドアチェック」の供給量不足でトヨタ自動車が全国の車両組み立てラインの大半を段階的に停止する事態に陥った。さらに昨年、アイシンではグループ会社の事故も5月、7月、8月と相次ぎ、試練の年となった。
熊本地震からの復旧を、アイシン精機の伊原保守社長は「感謝と執念」と表現する。2011年の東日本大震災の時、トヨタ自動車の専務で調達本部長として修羅場を経験している伊原社長。アイシン九州の被災工場を目にし、復旧には時間がかかると直感した。落下した天井クレーンはプレス機を押しつぶし、ラックから金型も飛び出していた。
しかし、「4月19日にここに来たときには想定できなかった」(伊原社長)というほど対応は早かった。設備や建屋の破損・損傷などでアイシン九州での生産を断念し、23日には取引先の工場でドアチェックの代替生産が始まった。海外工場からも緊急輸入して急場をしのいだ。
「アイシン九州がなくなるのではないか」
本震後には、あるうわさが流れていた。「アイシン九州がなくなるのではないか」。代替生産のために次々と設備が工場外に持ち出される光景は、社員や地域関係者を不安にさせた。4月22日15時。アイシン九州の高橋寛社長は「必ずこの地で復活する」と全社員を前に宣言。代替生産のお願いと、雇用を守って8月をめどに生産工程を戻すと約束した。
すると、少なかった代替生産先への派遣希望者が一気に増えた。受け入れ先のトヨタ自動車九州小倉工場(北九州市小倉南区)ではサンルーフ、トヨタ紡織九州(佐賀県神埼市)やこれまで取引のなかったヨロズ大分(大分県中津市)ではシート部品を生産してもらった。
代替生産先は九州7カ所、愛知県7カ所の合計14カ所。アイシン九州から345人が出向した。物流拠点も九州5カ所、愛知1カ所に設置して対応した。8月22日には高橋アイシン九州社長が「生産開始宣言」を実施。今では大半の社員が出向先から復帰した。
ドアチェックは在庫5日分を愛知県で確保し、当面のリスクを回避。アイシングループでも災害時に供給量に懸念のある約20品目で在庫を持ち、善後策を練る。
震災の前日に「CRO」を指名
熊本地震で大きな被害を受けたアイシン九州(熊本市南区)には、地震直後に親会社のアイシン精機グループのほか、トヨタ自動車や日産自動車、マツダからも支援部隊が飛んだ。連日、アイシン九州と子会社のアイシン九州キャスティング(同)が約400人、自動車メーカーなどから約250人、アイシングループから約350人の合計1000人体制で復旧を急いだ。
生産移管先を決め、4月下旬から5月初めにかけて「前代未聞の代替生産」(伊原保守アイシン精機社長)を迅速に進めた。しかし、熊本地震からの立て直しに力を注いでいたさなか、思わぬ事態が発生する。
5月30日。グループ会社で自動車用ブレーキ大手のアドヴィックス(愛知県刈谷市)の刈谷工場(同)の塗装工程で爆発事故が起きた。
事故を起こした工程以外は同日に順次、稼働したが事故工程の再稼働は8月10日。海外からの輸入や代替生産でしのいだものの、事故直後はトヨタやスズキが車両組み立てラインを一時止めた。
さらに、表面処理を手がけるグループの愛知技研(同)でも7月6日にガス発生事故が起き、工場外にもガスが流出。アイシンの伊原社長が同21日に愛知県の大村秀章知事を訪ねて謝罪し、再発防止策を発表した。
だが、8月21日には再び愛知技研の別の生産ラインで火災が発生。愛知技研はどちらの事故も生産復旧や在庫により、取引先への悪影響を防いだ。愛知技研のガス発生事故について伊原社長は「増産で忙しくなり、作業者がタンクの掃除もかけ持ちして操作を間違えた」と説明する。
そのため、国内のグループ73社で安全や地震、コンプライアンス(法令順守)の対策を再確認。安全については現場任せにせず、管理者層が現場に出向いて困りごとの聞き取りなどを徹底し、事故の再発防止策を講じている。
アイシンは2016年4月13日、偶然だが熊本地震の前日に大規模地震対策委員会を開き、三矢誠副社長をCRO(最高リスク管理責任者)に、岡部均副社長を対策本部長に指名した。
自宅から本社に歩いて通える岡部副社長を戦略的に対策本部長に据えたため、初動が早かった。地震と事故で短い間に得た多くの教訓は、企業力の強さにつながっている。
日刊工業新聞2016年10月18日19日/2017年5月1日の記事を再編集