【三菱重工業 劇場型改革の真価#08】火力統合から3年超、世界と戦えているか

<挑戦する企業アーカイブ>GE、シーメンスに比べまだ生産性低く

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MHPSの公式動画より
 製造業における国内有数の事業統合からまもなく2年。火力発電システム事業の三菱日立パワーシステムズ(MHPS)が「世界一」の旗印を掲げ、毎年1000億円ずつ受注を積み増し、階段を着実に上っている。社長の西澤隆人は三菱重工業、日立製作所から引き継いだ国内工場のトップを入れ替えるなど組織融合を急ぎ、4月の労働条件統一をもっておおむね統合は完了する。米ゼネラル・エレクトリック(GE)による仏アルストムの事業買収など競合の動きも速く、立ち止まる余裕は皆無だ。シナジー創出に成長の源泉がある。

 2015年8月末、南アフリカ。西澤は電力会社エスコム会長のベン・ウグバネと握手を交わし、同国最大規模の石炭火力発電所の商用運転開始を祝した。

 07年以降、日立が連続受注したボイラ12缶の初号機完成式典。ズマ大統領の到着が約2時間遅れたが、大統領の近くの席を用意された西澤は、蒸気タービンを担当したアルストム幹部の後方からの視線を感じながら、大統領の約45分間に及ぶ祝辞に耳を傾けた。

 総額数千億円に及び、完成まであと4―5年かかるというMHPS最大級の工事。品質問題に起因する工程見直しや現地ストライキなど不運が重なり、約3年遅れで運転開始にこぎ着けた。西澤は2カ月に1度足を運び、現場を鼓舞するとともに、執行役員2人を張り付かせて進捗管理を徹底。ようやくここまでたどりついた

フィリピンは“本土防衛”攻守の要衝


MHPSフィリピン工場

 GE・アルストム連合、独シーメンスを追いかけるMHPS。欧米やアフリカなど競合の“シマ”に攻め込むと同時に、日本や東南アジアなど“本土防衛”に力を注ぐ。そんな攻守の要衝がフィリピンにある。

 15年7月、シンガポールで開催された三菱重工エネルギー・環境ドメイン主催のアジアパシフィック(東南アジア、インド、中国、韓国、台湾など)地域拠点会議。ドメイン事業規模を17年度に2兆3000億円(14年度1兆9000億円)に、このうちアジアパシフィックで5200億円(同3000億円)を稼ぐ意欲的な計画が示された。

 社長の宮永俊一以下、ドメイン長(当時)の前川篤ら大勢の経営幹部を前に、MHPSフィリピン社長の藤井宏志は一通りの説明を終えた後に一曲のポップミュージックを披露した。

 タイトルは「A Brand New Day」。軽快なリズムとともに、ボイラ溶接にはげむ従業員、家族や子どもも映し出され、エンドロールには「日立の樹(米ハワイ州オアフ島)」。これを聴いた宮永は絶賛したという。

 MHPSフィリピン(MHPS―PHL)は旧バブコック日立の流れをくむ、中小型ボイラの製造子会社。マニラから100キロメートル以上離れたバタンガス州に工場を構え、約800人が働く。事務所棟入り口には日立相談役の川村隆による記念植樹があり、所々に日立流のスローガンや改善活動が見受けられる。

 MHPS―PHLの鋼材加工量はここ数年、過去最高レベル。しかし、MHPSグループ入りするに当たり、社内にリストラへの疑念もあった。そんな不安を察した藤井が、一体感を醸成するために独自の工場ソングを企画。女性従業員がわずか10日で完成させた。

 フィリピンの平均年齢は約23歳。英語やITに堪能で女性が活躍し、祭り好きの気質。外資にとり即戦力として申し分ない。MHPS―PHLは多くの溶接資格を持ち、日系企業の工事を請け負える。高い語学力からエンジニアの海外派遣にも重宝するであろう同社を西澤は「宝の山」という。

 「MHPSになり世界が広がった。ボイラだけではなくタービンもディーゼルもある。アジア進出に絶好のロケーション。ベースキャンプとして使ってほしい」と藤井が話すよう、MHPSは横浜工場(金沢地区)からボイラの製造を移管することを決め、さらにフィリピンに遠隔監視センターやトレーニングセンターも設置する。

 15年11月、インドネシア・スラバヤ。MHPS常務執行役員サービス戦略本部長の河相健は現地で開いたO&Mセミナーに出席し、インドネシアパワーなど発電会社幹部と向き合っていた。インドネシアには運転効率の悪い中国製ボイラが多数存在し、日系企業への期待は大きい。

 1カ月のうち半分近くを海外顧客対応に費やす河相。タイやインドネシアなど発電会社首脳と太いパイプを持つ。トラブル情報を即座に公開、対策・原因究明を共有し、夜行便でエンジニアを飛ばすなど、日本流の”おもてなし“サービスで信頼を積み上げた。

 メーカー側視点でみると、遠隔監視などのサービスは常時顧客とつながり、不具合予兆のビッグデータの源泉。GEやシーメンスなど他社からの参入障壁にもなり、顧客囲い込みによりガスタービンなど主要機器の追加受注が期待できる。

 三菱重工は約15年前の米法人開設を機に「鎖国から開国」(河相)に舵を切り、今やMHPSとして世界3000人規模のサービス人員を抱える。

 高砂工場(兵庫県高砂市)、米オーランドに大規模遠隔監視センターを有する。MHPS発足時に約4000億円だったサービス事業規模を1兆円に引き上げるのが目標だ。

旧バブコック日立の“財産”


 再びフィリピン。ルソン島の某大型石炭火力発電所の蒸気タービンのサービス契約をMHPSグループが獲得した。かつては三菱重工が手がけていたのだが、この数年シーメンスに奪われていた。

 MHPS―PHLを通じて、三菱重工を母体とする長崎工場が強力な技術支援を送り込み、ボイラ、タービンの一括受注獲得に至った。

 決め手は「RBM」。膨大なボイラ運転データを基に損傷箇所を予測する旧バブコック日立の“財産”だ。同発電所の運転効率向上を実現し、発電事業者の心をつかんでいた。

 サービスに限らず、世界の大型新設プロジェクトでGEやシーメンスに真っ向勝負を挑むなか「足し算以上の受注はできている」と三菱重工エネルギー環境ドメイン長の名山理介も目を細めるが「より合理化され、収益が上がることを期待している」とクギを刺す。

 15年10月、MHPSは「蒸気タービン技術本部」と「ガスタービン技術本部」を廃し、「タービン技術本部」を新設した。副本部長兼ガスタービン技術総括部長兼高砂工場地域統括という、要職を務める執行役員の竹原勲は、日立工場(茨城県日立市)で30年弱を過ごし、昨年“三菱の本丸”に異動を命じられた。

 竹原に当初の気負いはない。三菱重工から受け継ぐ高温燃焼技術を日立系のガスタービンに注入しており「16年早々には形が見える」と自信を示す。

 タービン、ボイラ、発電機など火力発電装置フルラインが揃い、人材の融合、開発の統合が進む。GE、シーメンスが脅威であるのは間違いないが、規模だけが勝負ではないことはMHPSの受注状況が証明している。変化への対応力―。そのスピード感が生死を分けることになるだろう。
(敬称略)

インタビュー・西澤隆人MHPS社長


 ―足元の受注は。
 「難しいと思っていた1兆4000億円規模の受注を14年度に達成し、15年度は1兆5000億円規模が見えている。GEによる仏アルストムの事業買収が良い刺激になった」

 ―シナジー創出と今後の課題は。
 「本社は誰がどの出身か分からないくらい混ざり合い、国内工場では責任者を入れ替えた。米国、中国、東南アジアに統括拠点を設け欧州も検討中だ。次の課題は生産統合。うまくいけば2―3年後に利益はついてくる」

 ―待遇、出張規程など人事制度統合は。
 「4月1日に統一する。出張規程や在宅勤務など(三菱重工、日立の)良いとこ取りだ。今年から設立記念日の2月1日を休日にする。区切りで反省することは大切だ」

 ―タービン技術本部をつくりました。
 「関西電力姫路第二発電所で発生したトラブルの対策会議でガスタービンと蒸気タービンの技術者が論争しているのを見て、これはまとめようと。回転機械で根源は同じ。忌憚(きたん)なく意見を言い合うことで会社は強くなる」

 ―石炭ガス化複合発電(IGCC)に注目が集まります。
 「タイやインドネシア、チリ、南アフリカ、ポーランド、モンゴル、トルコなどが興味を示している。福島県に計画する2カ所のIGCC(広野火力発電所、勿来発電所)のどちらかにショールームを作ってもよい」
(聞き手=鈴木真央)
※内容、肩書は当時のもの

日刊工業新聞2016年1月4日

COMMENT

長塚崇寛
名古屋支社編集部
編集委員

MHPSは競合他社に比べて、生産拠点数や製品の種類も多く、製品ごとの生産ライン/工場集約による生産性向上や資産活用の促進が足元の課題。具体的にはガスタービンを高砂工場(兵庫県高砂市)、大型蒸気タービンを日立工場(茨城県日立市)に集約する。需要拡大が続くボイラは呉工場(広島県呉市)、長崎工場(長崎市)、インド、フィリピンなど全工場を一体運営してピークに対応する。

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