コニカミノルタの事務機IoT、外資大手ITからもモテモテ
マイクロソフトやシスコなども期待、クラウドのグッドパートナー
事務機器メーカーのコニカミノルタが、オフィスや工場、病院などさまざまな現場で、複合機を中核に機器の状態監視や稼働を効率化するソリューションビジネスに乗り出す。機器やデバイスから集めた大量の情報を活用するIoT(モノのインターネット)ビジネスだ。IT企業でも、総合電機でもない同社がIoTで商機を狙う背景には、事務機器ならではの強みと苦しみがある。
コニカミノルタの複合機器などをデータ処理の中核とするエッジIoTプラットフォーム(基盤)「ワークプレイスハブ」は、IT企業から期待を集めている。米マイクロソフトや同シスコシステムズなどIT企業7社が、IoT基盤のグローバル・エコシステム・パートナーに名を連ねる“モテモテ”状態だ。
その理由は、コニカミノルタの提案が、IT大手の得意とするクラウドネットワーク上でのシステムと異なるからだ。クラウドにデータを送る前に、ある程度のデータを即時に処理する“エッジコンピューティング(エッジ)”と呼ばれる。通信量を抑制でき、顔画像などのプライバシー情報を送らないよう処理できるため、エッジはクラウドの良いパートナーとなる。
シスコシステムズ合同会社(東京都港区)の鈴木みゆき社長は、「エッジは、『我が意を得たり』と感じた」と語り、日本ヒューレット・パッカード(同江東区)の西村淳取締役常務執行役員は「ゲームチェンジャーの支援は我々の仕事」と意気込む。
なぜコニカミノルタが“エッジ”をやるのか。第1に、事務機器はオフィスに“場”を持つ。オフィスに設置した複合機に、データを処理するサーバー機能を乗せれば、IoT導入のハードルを下げられる。
第2に、1社1社を訪問する事務機器の営業スタイルは、顧客と距離が近いため、どんな課題を持っているか把握できる。山名昌衛社長は「200万社とつながりがある」と強調する。
コニカミノルタの前身はカメラメーカーのため、IoTに必要な動画や画像を効率的に処理する技術を持つ。「パートナーにとって、画像処理や顧客の課題把握、オープンイノベーションの文化が魅力になっている」(山名社長)。
同社は今秋、ワークプレイスハブの中核機器として、まず複合機にサーバーを乗せたタイプとサーバーのみを発売する。機器と接続してソリューションを提供できれば、市場の可能性は広がる。同社はオフィスだけでなく、製造業やヘルスケア、法務などでの採用も狙う。
特に製造業向けは、自社の生産改善を通じてソリューション開発に注力してきた。ワークプレイスハブは、関連機器やソリューションをセットで提案する「デジタルマニュファクチャリング」のIoT基盤にも使える。
計測機器の米ラディアントビジョンシステムズやネットワークカメラの独モボティックスの買収、産業用センサーの独ジックとの提携は、その布石だ。
IoTや製造業向けIoT「インダストリー4・0」は、大量のデータを集めて“いろいろなことができる”と期待される。だが、本当にどのぐらい業務を効率化できるか、確信を持つ人はどれほどいるだろうか。有効なソリューションを生み出せなければ、投資がかさむだけだ。
実のあるものにするには、利用者のニーズと技術とのつなぎ役が必要で、事務機器はその候補の一つ。今後、製造業や医療分野の企業と組めば、もっとソリューションを生み出しやすくなるだろう。
一方、事務機器メーカーは苦しい立場にあり、変化を迫られている。山名社長は「『事務機器どうですか?』と言っても売れない」と打ち明ける。市場が成熟し、製品の差別化が難しくなり、値下げ競争に陥りやすい。収益性は低下するばかりだ。
業界2位のリコーの構造改革は、その表れだ。リコーの山下良則社長は、4月半ばに開いた会見で、「収益シミュレーションでは数百億円の減益リスクがあり、2019年度には営業赤字になる可能性がある」と厳しい表情で語った。事務機器本体やアフターサービスの売価下落を予想する。危機回避のため、規模拡大を捨てる構造改革で、利益重視にかじを切る。
利益を求めるのは普通に見えるが、「利益は規模に付いてくる」との考えも染みついている。しかも、事務機器の競合は日本企業が多く、「目の前の敵を少しでも上回りたい」という意識が生まれやすい。
悩みは業界最大手のキヤノンも同じ。同社は商業印刷機やネットワークカメラ、医療機器メーカーなどを総額1兆円以上かけて相次ぎ買収し、将来の柱に育てる。
(文=梶原洵子)
コニカミノルタの複合機器などをデータ処理の中核とするエッジIoTプラットフォーム(基盤)「ワークプレイスハブ」は、IT企業から期待を集めている。米マイクロソフトや同シスコシステムズなどIT企業7社が、IoT基盤のグローバル・エコシステム・パートナーに名を連ねる“モテモテ”状態だ。
その理由は、コニカミノルタの提案が、IT大手の得意とするクラウドネットワーク上でのシステムと異なるからだ。クラウドにデータを送る前に、ある程度のデータを即時に処理する“エッジコンピューティング(エッジ)”と呼ばれる。通信量を抑制でき、顔画像などのプライバシー情報を送らないよう処理できるため、エッジはクラウドの良いパートナーとなる。
なぜ“エッジ”
シスコシステムズ合同会社(東京都港区)の鈴木みゆき社長は、「エッジは、『我が意を得たり』と感じた」と語り、日本ヒューレット・パッカード(同江東区)の西村淳取締役常務執行役員は「ゲームチェンジャーの支援は我々の仕事」と意気込む。
なぜコニカミノルタが“エッジ”をやるのか。第1に、事務機器はオフィスに“場”を持つ。オフィスに設置した複合機に、データを処理するサーバー機能を乗せれば、IoT導入のハードルを下げられる。
第2に、1社1社を訪問する事務機器の営業スタイルは、顧客と距離が近いため、どんな課題を持っているか把握できる。山名昌衛社長は「200万社とつながりがある」と強調する。
オープンイノベーションの魅力
コニカミノルタの前身はカメラメーカーのため、IoTに必要な動画や画像を効率的に処理する技術を持つ。「パートナーにとって、画像処理や顧客の課題把握、オープンイノベーションの文化が魅力になっている」(山名社長)。
同社は今秋、ワークプレイスハブの中核機器として、まず複合機にサーバーを乗せたタイプとサーバーのみを発売する。機器と接続してソリューションを提供できれば、市場の可能性は広がる。同社はオフィスだけでなく、製造業やヘルスケア、法務などでの採用も狙う。
特に製造業向けは、自社の生産改善を通じてソリューション開発に注力してきた。ワークプレイスハブは、関連機器やソリューションをセットで提案する「デジタルマニュファクチャリング」のIoT基盤にも使える。
計測機器の米ラディアントビジョンシステムズやネットワークカメラの独モボティックスの買収、産業用センサーの独ジックとの提携は、その布石だ。
IoTや製造業向けIoT「インダストリー4・0」は、大量のデータを集めて“いろいろなことができる”と期待される。だが、本当にどのぐらい業務を効率化できるか、確信を持つ人はどれほどいるだろうか。有効なソリューションを生み出せなければ、投資がかさむだけだ。
実のあるものにするには、利用者のニーズと技術とのつなぎ役が必要で、事務機器はその候補の一つ。今後、製造業や医療分野の企業と組めば、もっとソリューションを生み出しやすくなるだろう。
事務機器メーカーは苦しい立場
一方、事務機器メーカーは苦しい立場にあり、変化を迫られている。山名社長は「『事務機器どうですか?』と言っても売れない」と打ち明ける。市場が成熟し、製品の差別化が難しくなり、値下げ競争に陥りやすい。収益性は低下するばかりだ。
業界2位のリコーの構造改革は、その表れだ。リコーの山下良則社長は、4月半ばに開いた会見で、「収益シミュレーションでは数百億円の減益リスクがあり、2019年度には営業赤字になる可能性がある」と厳しい表情で語った。事務機器本体やアフターサービスの売価下落を予想する。危機回避のため、規模拡大を捨てる構造改革で、利益重視にかじを切る。
利益を求めるのは普通に見えるが、「利益は規模に付いてくる」との考えも染みついている。しかも、事務機器の競合は日本企業が多く、「目の前の敵を少しでも上回りたい」という意識が生まれやすい。
悩みは業界最大手のキヤノンも同じ。同社は商業印刷機やネットワークカメラ、医療機器メーカーなどを総額1兆円以上かけて相次ぎ買収し、将来の柱に育てる。
(文=梶原洵子)