キヤノン、1兆円M&Aの成否。期待大きい東芝メディカル

売上高4兆円企業への進化はこれから

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キヤノンの御手洗会長(左)に説明する東芝メディカルの瀧口社長(右)
 この数年で総額1兆円以上をかけてM&A(合併・買収)を実施したキヤノン。今、その効果を着実に生み出そうとしている。自社の技術を生かせる商業印刷機や監視カメラ、医療機器のメーカーを買収しており、互いを深く知ることに力を注ぐ。巨額のM&Aの成否は、地道なモノづくりに裏打ちされた“キヤノン文化”の浸透がカギを握る。

 最も注目されるのは、2016年12月に約6655億円で買収した東芝メディカルシステムズ(栃木県大田原市)。4月半ばの医療機器展示会では、御手洗冨士夫会長兼最高経営責任者(CEO)をはじめ、多くのキヤノン幹部が東芝メディカルのブースを訪れた。真栄田雅也社長は「基盤のしっかりした技術だ。数年で大きなシナジーを出せるのではないか」と自信に満ちた笑顔で語った。特に画像や生産関連の分野での相乗効果に期待を寄せる。

 17年に両社の顔合わせが始まると、東芝メディカルの瀧口登志夫社長は早速、大分キヤノン(大分県国東市)へ向かった。完全自動化が可能な最先端のカメラ生産ラインを見るためだ。瀧口社長は御手洗会長と工場を見学した際、その生産技術の高さに驚いた。一方で多品種少量生産の東芝メディカルでは同じ事は難しいと言うと、御手洗会長から「やりようがある」とたしなめられた。キヤノンの優れたモノづくり力を通じ、化学反応が起き始めている。

 ここ数年、東芝メディカルは東芝の経営問題に振り回されてきた。この時期、和光純薬工業への買収に向けて入札を検討していたが、見送りを決めた。瀧口社長は「今、やっと前を向ける状態になった」と語る。シナジーの検討を急ぎつつ、キヤノン流のイノベーションを取り入れ、経営基盤を強固にする意向だ。

 一方、7年前にグループ入りしたオランダのオセとは、商業印刷機の分野で相乗効果が顕在化している。オセのアントン・スカーフCEOは「キヤノンとのタッグで、1位を保持している」と語る。競争の激しい商業印刷機市場の中で、同社の連帳デジタルインクジェット印刷機は、後発ながら1年で70%の市場シェアを獲得した。腰を据えた協力関係を結び「製造面では多くをキヤノンから学び、研究開発では双方が学んだ」(スカーフCEO)。

 キヤノンもオセから多くのことを学んだ。18日に本社敷地内に商業印刷機の体験施設「カスタマーエクスペリエンスセンター(CEC)東京」を開設した。同施設には、キヤノン製とオセ製の印刷機が並ぶ。15年に御手洗会長がオセのCECを訪れて、感銘を受け、2年がかりで実現した。複合機と違い「顧客と一緒にシステムを作る場が必要だと痛感した」(御手洗会長)と打ち明ける。

 キヤノンは医療機器や商業印刷機、監視カメラなどを将来の柱に育成するため、必要があれば今後もM&Aを検討する。売上高4兆円規模の巨大企業の進化は、始まったばかりだ。
(文=梶原洵子)
              

日刊工業新聞2017年4月25日

COMMENT

政年佐貴惠
名古屋支社編集部
記者

当時は過去最高額だったオセの買収が、その後の買収・統合戦略に大きく影響を与えたと見ている。オセの買収を決めた後も一部株主の反対などで手続きの完了まで時間がかかり、統合作業は2年ほど遅れた。この時の経験が「買収企業の経営の独立制を保つ」という基本スタイルにつながったのではないだろうか。オセとは開発を中心に相乗効果が生まれており、2015年の自社展示会でも共同開発品を披露していた。キヤノンも伸び悩んでいるとはいえ、苦戦しているリコーやニコンを見ていると、多角化・買収戦略ではキヤノンに軍配が上がりそうだ。

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