【三菱重工業 劇場型改革の真価#04】戦後から続いてきた組織にくさび

ドメイン制で「知の解放」はなるか

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宮永俊一社長(三菱重工公式動画より)
 2013年、三菱重工業は九つの事業本部を「エネルギー・環境」「交通・輸送」「防衛・宇宙」「機械・設備システム(14年4月発足)」の4事業ドメインに組み替えた。11年に事業所(工場)が握る企画、品質保証、営業、設計、工作などの権限を事業本部に移管しており、ドメイン制をもって戦後の財閥解体から続いてきた事業所、事業本部体制に終止符を打った。

 ドメイン制が完成形ではないが、地域に一大産業クラスターを形成する造船を祖業とする三菱重工にとって道のりは長かった。例えば以前の神戸造船所は、4000人もの社員を抱え、グループ企業や協力会社を含めて1万人規模が働き、労働組合、病院などを持つ。事業所がそれぞれ”大企業“だったわけだ。

 さらに事業本部が受注責任を、事業所が損益責任を握るいびつな関係。両者で調整し、一定の合意を見た案件を全社の俎上(そじょう)に挙げるという複雑で遅い意思決定スキームが成長を阻んできた。周囲から「三菱重工には14種類の給料袋がある」と揶揄(やゆ)されるほど事業所権限が強かった。

 幾度も挑戦し、失敗してきた事業所解体プロジェクトを世界有数の険しい山に例え、社内で「K2」と名付けたのも無理はない。今や事業所長は地域対応などを主とする役職だ。ドメイン制で人材の流動性も高まった。

 「経営とは究極のところ、世の中の変化に対応した、リソースの最適配分だ」とグループ戦略推進室長を務める取締役常務執行役員の小口正範。事業所最適には、ある種の居心地の良さはあるが、課題解決の糸口も”蛸壺(たこつぼ)“にしか見いだせなかった。ドメイン制の本質は気づかなかった個の能力を最大に引き出し、成長に振り向けるインテリジェンス(知)の解放といえる。

 一段のマージ(融合)から次の成長の種をつくりだすクロスドメイン活動。社長特命事項として指揮を執るのは、この10月にエネルギー・環境ドメイン長を外れた取締役副社長執行役員の前川篤。「GEやシーメンスなどの追随を許さない、独自のワンストップソリューションを実現する」と意気込む。

 一例が洋上LNG発電プラント。島嶼(とうしょ)部が多く、送配電網やガスパイプラインが不足している東南アジアなどの沿岸に、新たなエネルギーインフラとして提案している動く火力発電所だ。造船、ガスタービン、化学プラントなどの知見を結集する必要があり、以前は「注文があっても断っていた」(前川)。

 現状はオイル&ガス、分散型電源(エネルギーマネジメント)、廃炉を対象に技術を融合させている。今後は「時間はかかるが、ロボットは面白いものができる」と前川。深海で作業するロボなど構想は尽きない。クロスドメイン活動から何兆円ものビジネスが生まれるかもしれない。
(文=敬称略)

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長塚崇寛
名古屋支社編集部
編集委員

 4月に4事業ドメインから3事業ドメインに再編した。①ガスタービンなど火力発電プラント向け機器や航空機エンジン、コンプレッサーなどで構成するパワードメイン②フォークリフトや過給器、製鉄機械、冷熱などを持つインダストリー&社会基盤ドメイン③防衛・宇宙、民間航空機向け機体部品、MRJを有する航空・防衛・宇宙ドメインの三つ。  パワードメインは米ゼネラル・エレクトリックや独シーメンに対抗できるビジネスモデルを志向。EPC(設計・調達・建設)とアフターサービス事業の両輪でライバルを追撃する。インダストリー&社会基盤ドメインは商船事業を置いたのがポイント。数多くの機械関連事業を再編・改革してきた  旧機械・設備システムドメインのノウハウを商船に適用。商船事業の改革を加速させる。航空・防衛・宇宙ドメインは、宮永社長の直轄事業としたのが特徴。大型航空機の需要減速に伴う機体部品事業のコスト競争力強化や、5度目の納期延期を決めたMRJの開発完遂と2020年半ばに変更した納期厳守をトップダウンで実施する。

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